その時、亜夢はふと、美優の苗字を聞いていない、と思った。
「そうなんだ…… けど、美優の苗字って、私聞いてなくない?」
 亜夢が言うと、美優は少し怒ったような表情になった。
「あ、ごめん。私の苗字って言ってなかったけ? 私、|乱橋(らんばし)っていうんだ。乱橋亜夢」
「そういうことじゃないの……」
「……ごめん。いいたくないこともあるよね」
 しばらく、二人は何も話さなくなってしまった。
 案内されたテーブルにつくと、ウエイターがメニューを持ってきて、美優と亜夢に説明を始める。
 二人は食べたいものを選んで告げると、ウエイターはそのまま下がった。
 亜夢は何を言うか悩んだ末、口を開いた。
「その制服、カッコいいね……」
「そお? 昔は葵山学院も私服で通えたらしいんだけど」
「私服。それもそれでいいね。気楽で」
「そうよね。私はどっちかっていうと私服がいいけど、制服があった方が生徒が集まるらしいの」
「あ、なんかそんなはなし聞いたことある。制服じゃなかったって」
「けど、それ、相当昔よ。知ってるのはおばさんね」
 亜夢は清川の顔を思い出して笑った。
「亜夢んところはどうなの?」
「……」
「?」
「制服だよ。つまんない制服」
 細かいところを話すわけにもいかない。『みきちゃん』が知っていたように、どうやら制服の話から『ヒカジョ』だとバレることもあるようだからだ。
 亜夢は自分が振った話題がまずかった、と後悔した。
「写真とかないの?」
「……」
「?」
 亜夢は慌ててスマフォを探すふりをする。
「うーん。制服で写真とることないからなぁ」
「そうなんだ」
「ごめんね」
 と言って、亜夢はスマフォを机に置いた。
 すると、通知が来て待ち受け画面が表示された。
「!」
「あっ!」
 亜夢は慌ててスマフォをしまう。
「ご、ごめん。ちょっと見ちゃった。その制服なの?」
「えっと…… この|娘(こ)はナナって言って……」
 同じ学校かどうか、というところを言うか、言わないか、それともウソを言うか…… 亜夢は必死に考えた。
「友達なの」
「へぇ…… なんかそういうの……」
 さっきまで亜夢を見ていた美優の視線が、泳ぎ始めた。
「?」
「そういうのいいな」
「美優の待ち受け見てもいい?」
「あ、えっと、だめ。亜夢、そうだ。亜夢の写真撮っていいい? 一緒にならんだ写真」
「ん、いいよ」
 美優はスマフォを持って亜夢の横にくる。亜夢は席をひとつずらして美優に座らせる。
「こっちをバックにした方がいいね」
 店の中庭が見える窓をバックにして、写真をとった。
 何枚かの写真の中から、美優が選ぶ。
「これなんかどう?」
 亜夢は写真を見て、
「うん、いいね。そのスマフォの写真綺麗だね。私のなんか比べ物にならないわ」
「じゃ、これに決まり」
 美優はそう言うと、ささっとトリミングし、待ち受けの壁紙にその写真を設定した。
 亜夢に顔を寄せてきて、スマフォの画面を見せる。
「どう?」
「うん、いい感じ」