その美優の触れた手が心地よかった。
 お互いに髪を洗い、流して、美優からシャワールームを出る。
 亜夢は少し熱くしたシャワーを頭から浴びながら、美優のテレパシーの違和感を考えていた。
 もし美優があのテレパシーを送ってきたのだとしたら…… 顔の筋肉や体が示す態度と、感情が完全に独立・分離していると思える。人に、そんな芝居が出来るものなのだろうか。
 そして一番重要なのは『ヒカジョ』と言ってくることだった。
 美優には言ってないし、バレてない、と思っていた。
 いや、もし、あのライダーが美優だったら…… 車椅子の人と美優が知り合いだったら…… まさか表通りの有名ブランドで買いものする美優が、裏路地の『みきちゃん』とかと知り合いだったら……
 どれも可能性が低くて、偶然が過ぎる。
 コンコン、とシャワールームのガラスを叩く音がする。
「映画とか見れるんだよ。早く上がってきて」
 亜夢はシャワーを止め、同時に違和感への考察をやめた。
 美優と同じように下着だけつけると、ベッドの上にのってリモコンを操作しながら映像メニューを眺めると、美優が、
「これにしよう」
 と言うので、亜夢はうなずいた。
 ホラー映画の終盤、連続する脅しと恐怖の繰り返しに、美優と亜夢は頬を寄せ、体を合わせていた。
 映画の中の主役が、エンディングを迎えてキスをするシーンに、美優も盛り上がったのか目を閉じて亜夢の方を向いた。
 亜夢はくちびるを当てる、というくらい軽いキスをして、体を離した。
 美優はうつむいた。
「わからなかった?」
 亜夢は美優の表情が暗いことが気なって、美優の腕に触れた。
「ごめん」
「それって|わかってて(・・・・・)の『ごめん』なの?」
「えっと…… 」
 美優に触れていた手を振り払われる。
「わかってるんでしょ? 言わないとダメなの?」
 背を向ける美優を、亜夢が振り向かせる。
「わかってる。私も好きだよ。美優。大好き」
「じゃあ!」
 亜夢は美優を強く抱きしめ、口づけをした。
 互いの唇が少し開いて、舌が出入りして唾液の交換をした。
 美優の口から吐息のような声が聞こえる。
 唇が離れ、亜夢が美優に覆いかぶさる。頬と頬が触れ、亜夢は美優の耳に語り掛ける。
「まだ決断がつかないの。美優の気持ちは受け止めたよ。だから私の気持ちも受け止めて」
「けど、悩むってことは…… スマフォのあの|娘(こ)」
「私の答えを急がないで欲しいの…… お願い」
 閉じていた亜夢の瞳から、美優の頬に涙がつたう。
「……うん。ごめん、亜夢」
「ありがとう……」
 亜夢の四肢と美優の四肢は絡まりながらも、限界の一線を保った。
 スマフォの振動が連続して、二人は体を離した。
 美優は亜夢に向かって、口に人差し指を立てて合図する。
「ママ? どうしたの」
 母親からの電話のようだった。 
 真剣な表情と、綺麗な言葉の受け答え。
 亜夢は美優との育ちの違いを感じた。
 電話を終えると、美優は大きくため息をついた。
「どうしたの?」
「急いで帰って来いって。車を迎えに行かせるって。だから、今日はこれでおしまい」
「そう……」
「亜夢は時間いっぱいまで居てもいいよ」
「美優がいないのに、残ってても面白くないよ」
「そう? 亜夢の支度を待ってられないかもしれないけど」
 美優は急いで服を着ている。
 亜夢も脱ぎ捨てた服を慌てたように拾って身に着ける。
 美優はあっという間に支度を整えて、部屋を出ていく。
「亜夢、ごめんね。支払いはするから心配しないで」