『うるさい!』『うるさい!』『うるさい!』『うるさい!』……
 黒い体は停止したまま、コアは狂ったように|思念波(テレパシー)を送り続ける。
 私は戻ってこようとするコアを踏みつけるようにして止め、通路の奥へ蹴り返した。
『さよなら』
 私は急いで階段を上って父に追いつく。
「この扉を開けてくれ」
「ここから帰れるの?」
「知るか。こっちは両手がふさがってるんだ」
 置けばいいじゃない、と言いかけてやめた。私がいない状態で扉を開けて、向こうに〈転送者〉がいたらアウトだ。
 持っているかどうかは別にして、リスクが高くて父には開けれないのだ。
「じゃ、開けるわよ…… それっ!」
 鳥の足で蹴り開ける。
 扉の枠がブロックノイズのように輝き出した。
「これっ?」
「そうだ、行くぞ!」
 走り込む父に、続いて私も飛び込む。

 明るすぎて何も見えなくなった後、父の背中にぶつかった。
「どこ……」
「ゲートだ。戻ってきたんだ」
 鬼塚の声が聞こえた。
 暗さに目が慣れてくると、父と鬼塚が見えてきた。
「鬼塚刑事、例の女の子は?」
「まだ到着していません」
 父は私を見つめた。
「……キミコ。私がこのコアとの融合に失敗したら、かならずそのマミという子で試せ。約束してくれるな」
「……」
 つまり、融合に失敗した場合、父は……
「約束しろ!」
 私はうなずいた。
 父は抱くようにコアを抱え、私にコアに触れろという。
「コアに話しかけろ。『トランスフォーム』だ」
「アニメみた……」
「早くしろ!」
 父の真剣な表情にこれからすることの危険度を感じた。
 ゆっくりとコアに手を置き、コアに話しかけた。
『コアさん……』
『なんだ、ここは? お前たちの世界か?』
『トランスフォーム』
 父の腕が肌色のまま融解してコアを包む。
 髪の毛は抜け落ち、目も肌色になって溶けた。
 着ていた衣類が真下に落ちると、私の手にコアが張り付いてくる。
 父が、父が死んだ?
「うぁあああああ!」
 コアの表面を伝って、肌色不透明なジェルが私を取り込む。
 顔の前をそのジェルが覆い、何もかも見えなくなると、地面から足が離れ、ふわっと浮いたように感じた。
「どうなってるの?」
 声になっていなかった。
『どうなってる?』
 私は尋ねた。
『トランスフォーム中だ』
 コアが答えた。
『どうなってるの?』
 鬼塚が答える。
『俺の目の前に、肌色のタワーが見えるよ。巨大な肌色コケシというべきか』
 目の前に風景が広がる。