「あ、うん」
 美優がいなくなった部屋は、急に奇妙な知らない世界となって亜夢の気持ちを焦らせた。
 干渉波キャンセラーをしっかりと頭につけると、部屋をでた。
 廊下を通過して、受け付けを通過した。
「お客さん…… 部屋番号は」
 亜夢がどぎまぎしながら番号を答えると、
「ちょっと上向いて」
 亜夢はわからず上を向いた。どうやらカメラで確認しているようだ。
「あ、はいはい…… ご利用ありがとうございました」
 良かった、と思うと同時に、なんだ、ずいぶん失礼な、とも亜夢は思った。
 ラブホを出ると、細い路地をどちらに戻ればいいのか悩んだ。
 しばらく進んだのち、あまりに知らない風景だと思って、亜夢は反対方向へ歩き出した。
 小道を進むと、元の大通りの坂の途中に出た。
 美優は通りの反対側で黒塗りの大きな車に乗りむところだった。
「美優!」
 亜夢は思わず声を出して、手を振った。
 黒塗りの車の運転席の男が先に反応して、亜夢を睨みつけた。
「……」
 少しして、後部座席の窓が開き、美優が顔を出した。
 左手は口の前に人差し指を立てていて、右手で手を振った。
 亜夢は手を振って応えると、運転席の男は正面を向いて、車が走り出した。
「はぁ……」
 亜夢は大通りを下り、ホテルへの道を戻った。
 ホテルに入ると、ロビーに加山が座っていた。
「どこに行っていた?」
 亜夢は加山の表情に驚いた。
 本当のことを答えてはいけない気がした。美優に迷惑が掛かる。根拠はなかった。
 亜夢は言った。
「夕食を食べてました」
「誰と?」
「一人です」
「こんな時間まで? 知り合いでもいるのか?」
 捜査協力はするが、夕食の時間ぐらい個人の自由だ、と亜夢はくってかかるところをぐっと抑えた。
「……」
「もう何日もないが、明日からは夕食もホテルで食べるようにしてくれ。君が街をウロウロするのは危険だ」
 亜夢は周りを確認してから言った。
「私が犯人から狙われているとか? それとも単に私が超能力者だから?」
「どっちもだ」
 即座に言い放った。
 亜夢はムカついて加山を見ていられなくなった。
 バン、と叩くように肩に手を置き、
「わかったな」
 と言って去っていった。
 亜夢は加山の後ろ姿をにらみつけ、完全に見えなくなってから、指を立てた。
「あのクソ野郎が!」
 フロントに言って部屋の番号を言うと、ホテルの人は亜夢と目を合わせないように鍵をそっと出した。
「す、すみません」
 そういって鍵を受け取ると、部屋に戻った。

 翌日、亜夢が朝食を食べにホテルのカフェに下りると、入り口に加山が立っていた。
「今日は俺もここで食べる」
「……」
 亜夢は『なにを見張るの?』と言いかけてやめた。
 別の気の利いた言葉で返したかったが、加山に対しての怒りで頭が混乱してしまった。
「こっちにしよう」
 窓際に行きかけた亜夢を制して、加山は部屋の真ん中の席を指定した。
「窓際は危険だ」
「危険? どういう意味ですか」
「それを言わせるな」
「加山けぃ……」
 刑事、と言いかけて口をつぐんだ。