亜夢は椅子に座ると、ホテルの人が部屋番号を確認しにやってきた。
「加山さんが先に『危険だ』と言ったのが悪いんでしょう?」
「そうだな。窓際はいろんな人の目にさらされる。なるべく人の中に紛れる癖をつけないとな」
「具体的な誰かを想定して言っているの?」
「……」
 加山は黙った。
 亜夢は立ち上がると「朝食をとってくる」と言ってテーブルを離れた。
 加山は窓側を見ながら、亜夢が戻ってくるのを待った。
「加山さん、どうぞ取っていらしてください」
 亜夢が戻ると、加山は朝食を取りに立った。
 亜夢は山のように盛った皿を、端から順に平らげていく。
 亜夢は二つ目の皿を平らげた時、加山が戻ってこないことに気付いた。
「?」
 ホテルのカフェを見渡す。
 入り口に加山らしき影が見える。
 加山が口を動かしていることが分かると、亜夢は素早く干渉波キャンセラーを外して、意識を集中する。
『ここに来ちゃいかん』
『……』
『大切なお方……』
 超能力の干渉波が強くて、ところどころしか聞き取れない。
 加山が、亜夢の方を向く。
 亜夢は顔をそむけて、ゆっくりとキャンセラーを付けなおす。
 加山が食事をもって席に戻ってくる。
「遅かったですね」
「ああ」
「何してたんですか?」
「フロントに今日までの分の君の宿泊料を払ってきたのさ」
 ウソ、フロントと話す内容に『来ちゃいかん』とか『大切なお方』などという単語は入るはずがない。
「へぇ……」
「今日は小口処理の締め日なんだ。事務処理は面倒だが、守らないとこっちが損をするからね」
 言ってもいいくだらないことを言って、言いたくない事実を言わずに済まそうというわけだ、と亜夢は思った。
「加山さん、早く食べてくださいね」
「いくらなんでも俺の方が早く…… えっ、もう二皿食べたのかい?」
 今気づいたように驚いた表情を見せる。
「最後の皿も、もう、おわりますよ」
 言いながら皿を持って口に流し込む。
 食事が終わると、加山と一緒に警察署へ向かった。
 亜夢は通りを歩いている学生の中に、美優がいないかを探していた。
 しかし、美優を見つけることはできなかった。
「清川と中谷を呼んでくる。ここで待っててくれ」
 加山がそういうと、亜夢は急いでスマフォをチェックする。
 美優からのメッセージは昨日の晩の分で途切れている。
 今日は学校に来なかったのだろうか。体調でもわるい? 亜夢はメッセージを送った。
 亜夢はそのまま、清川らの声が聞こえてくるまで待ったが、返信はおろか、既読にもならなかった。
「……」
 清川がやってきて、会議をすると言う。
 亜夢と清川がエレベータに乗って会議室のあるフロアまで上がった。
 廊下を歩いている時、亜夢は尋ねた。
「昨日、こっちで知り合った友達と遊んだんです」
「へっ? そ、そうなの?」
 清川は軽く拳を握った。
「それで、どうしたの」
「私、触るとその人の考えというか、無意識のテレパシーをひろうことがあるんです」
「……」
 清川は立ち止まった。
「友達は触れ合いを喜んでいるようだったのですが、聞こえてくるテレパシーはなぜか酷い差別や怒りのことばだったんです」
 清川の腕が小刻みに震えていた。
「ふ、触れ合いって……」