小さい声だったせいか、亜夢は聞こえなかったように話をつづけた。
「時折、私は|他人(ひと)が何を考えているのか分からないことがあるんです。今回もそういう気持ちになりました。人間って、表情や態度とは考えていることが全く正反対なことってあるんでしょうか?」
「……」
 清川の視線が定まらなかった。あっちをみたり、こっちをみたりしている。
「そ、その、友達ってどんな『触れ合い』だったの?」
「えっ?」
 亜夢は初めて聞いた言葉のように驚き、頬が赤くなった。
「そ、そんなこと言いました?」
「あ、あと、友達って、同性? 異性?」
 亜夢は否定するように、指を開いて手の平を振った。
「あの、そいうことじゃなくて、えっと」
 清川と亜夢はしばらくお互いの顔を見てから、それぞれ床に視線を落とした。
「表情と考えていることが違う事があるか、ってことだよね?」
 亜夢は首を縦に振る。
「うんと、あるけど…… じっと見てればその表情が偽物なのかはわかるよ」
「……そうですか」
「頭で拾った|言葉(テレパシー)じゃなくて、目で見た表情とか、触れ合って感じたことを信じたほうがいい、と私は思う」
「清川さんの経験上ってことですか」
「うん」
 清川は顔が赤くなった。
「ちょっと、なに言わせるのよ。一般的な話としてね。そんななんか経験とか急に言われると」
「試してもいいですか?」
「えっ?」
 目を丸くしている清川を、亜夢は抱きしめ、互いの頬を合わせた。
 しばらくじっとしていて、頬を離すと見つめあった。
「亜夢ちゃん……」
 清川はスッと瞳を閉じた。
 迎え入れるように顔を上に向ける。
 亜夢はそれを無視して、こんどは逆の頬をくっつけた。
「あっ……」
 亜夢が腕に力を入れ、体を密着させると、清川は声を上げた。
「……ごめんなさい」
 清川が抱き返そうとした時、亜夢はそう言って体を離した。
「えっ?」
「あの、私、なんて言っていいか…… ごめんなさい」
「えっ、えっ?」
 清川は何が起こったのか分からない。
「あっ、こんなところにいたの、会議始めようよ。加山さん怒ってるよ」
 中谷はそう言って二人に近づいてきた。
 なにやらただならぬ雰囲気を察して、中谷が清川に耳打ちする。
「何があったの……」
「……」
 清川は『こっちが聞きたいくらいよ』と思ったが声には出さなかった。
「会議なんでしょ。早く行きましょ」
「そうですね」
「って、ちょっと、俺を置いていかないでよ」
 中谷は慌てて二人を追いかける。
 
 二人を追って、中谷が会議室に入ると、プロジェクターに大きな部屋の図面が表示されていた。
「どこですか、ここ」
「某ホテルの会場だ」
 加山は一呼吸おいて、全員の視線を確認すると、言葉をつないだ。
「今日は悪いが、まったく別の任務についてもらう」
「……」
「要人警護ですか?」
 中谷が言うと、加山はうなずく。
「まったく別だ、とは言ったが、関係がないわけじゃない。犯行予告はあの超能力事件の後に犯行声明した者と同じだ」
「ってことは、犯人からつかまりに出てきてくれるってわけじゃないですか!」
 清川がうれしそうに手を叩く。
「初めての捕り物ですよ。こう、押さえつけて『確保!』って! キャー!」
 自分の手に手錠をかけて、くるくる回している。
「そんな簡単な任務じゃないぞ。警護は我々四人だけじゃない。この後、全体会議があるが、多くの人と連携してやらなければならない」