亜夢はキャンセラーの右耳側を触りながら、何かが変わり始めていることを感じた。
 加山がパソコンを操作して、今回の要人と犯行予告を説明した。
 ついこの前、株式の時価総額が世界のベスト100に入ったという新興企業の、新サービスの発表会にテロリストが目をつけたようだった。
 テロリストはこの企業に対して、対立する大国でのサービス停止を要求するもので、応じなければ発表会を行うCEOをその場で殺害する、というものだった。
「この企業が、大国への情報提供をしているといううわさがあって、他企業へのけん制も含んでいると思われる」
「まあ、確かにここが集めた情報が軍事利用されていたら、小規模なテロリスト集団はたまったもんじゃないしょうね」
「わざわざ我が国で発表する意味あるのかしら?」
「うわさだけど、ここが一番非科学的潜在力に対して対策を取っているいる都市だから…… らしいよ。非科学的潜在力を締めだしている都市は他の国では考えられないみたいだから」
「……」
 亜夢はキャンセラーに触れた。
 確かに、ここでは超能力者は力を発揮できない。
「非科学的潜在力を持つ人の人権無視だって、国連から何度もたたかれてるけど、我が国はこの干渉波を出すのやめないからね」
「そんなことはいい。とにかく、我が国で実施することもテロリストの反感を買っているようだ」
「テロリストは非科学的潜在力保持者?」
 と亜夢が言う。
「……か、そっちの立場を味方する側ってことだね」
 と、中谷が返す。
「非科学的潜在力を使ってテロを起こす可能性がある。だから私が呼ばれる、ということですね」
 亜夢の視線は加山に向けられるが、加山は何も答えない。
「非科学的潜在力を持ったものが空港を通過して入国することはありえない。都市部の非科学的潜在力への防衛手段は完璧なのだから」
 確かに空港のそれは頭がおかしくなるほどひどい。
 しかし、それを聞いて、亜夢はにやっと笑った。
「じゃあ、私が捕まえたらヤバいじゃないですか。都市部に非科学的潜在力者が入ってきたことになっちゃうから」
「犯罪を防ぐことが最重要であって、その為にあ非科学的潜在力が使われてもかまわないとの見解だ」
「矛盾してるのよ」
 そう言った後、初めから矛盾している、と亜夢は思った。
 超能力者を探させようとするのに、私に超能力を使うな、と言っている。
 見つけようと意見をいうのに、それを聞き入れない。加山の態度は初めからおかしいのだ。
「後二十分ほどで会議が始まる。そろそろ大会議室へ移動しよう」
 会議室にはもう人が詰まっていて、加山の後を三人がついて行った。
「ヘッドホンははずせ」
 大会議室の入り口に立っている警官に注意され、亜夢は干渉波キャンセラーを外して手で持った。
 しばらくすると、上席の人間がぞろぞろ入ってきて、会議が始まった。
 説明している内容は、ほとんど加山が言ったことをなぞったもので、目新しい情報はなかった。
 大会議室の後ろの隅で、加山達四人は立って話を聞いていた。
 見るからに、その他大勢という扱いだった。
 会議が終わると、中谷が小声で言った。
「(会場内で、他に|非科学的潜在力(ちょうのうりょく)持っているひと、いた?)」
 亜夢は首を振った。
 中谷は手を広げて呆れた、という顔をした。
「なのにこの扱いか…… 捕まえる気あるのかな」
 加山が足を止めて、敬礼した。
 前方にいた、上席の人が亜夢たち四人のところにやってきたのだ。
「君たちは非科学的潜在力者の協力者を連れていると聞いた」
「はい。こちらであります」
 やってくる人影をみて、亜夢は思った。もっと恰幅の良いひとをイメージしていたけど、この人はスリムで背が高い。
 亜夢が、まだ距離があると思っていると、スッと目の前に進んできた。
「君が……」
 署長は、まるで品定めするようにつま先から頭のてっぺんまで見てから、言葉をつないだ。
「よろしく頼むよ」
 右手を出すので、亜夢も控え目に手を握る。
「!」
 亜夢は何か気づいたような表情をするが、署長は気にする様子はなく踵を返して去っていく。
 清川が寄ってきて言う。
「かっこいいわよね。亜夢ちゃんもそう思ったんでしょ?」