あらすじ

白井公子は、全寮制の百葉高校に通う高校生。子供の頃〈某システムダウン〉に巻き込まれた後、謎の組織に連れ去られて黒い翼や鋭い爪など、鳥とのキメラに改造されてしまう。同じように虎とのキメラである鬼塚刑事や百葉高校の教師で、蛇とのキメラである|新庄(しんじょう)|紅百合(くゆり)などと共に、〈某システムダウン〉の中心部分で避難区域の〈鳥の巣〉に発生する〈転送者〉と呼ばれる破壊者と戦っていた……


登場人物

白井公子:主人公。鳥とのキメラ。ツインテールだが、ババア声の女生徒。
|木更津(きさらず)|麻実(まみ):公子の同級生。
オレーシャ・イリイナ:百葉高校教師。白井公子の父と知り合い。
|佐津間(さつま)|涼(りょう):白井のことを『ババア声』認定した張本人。




 ツインテールはババア声4 (1)




 家に帰り、私は父の死を|義母(はは)に告げた。
 死体はなく、どうやって社会に父の死を告げて良いか分からなかった。
 ただ、〈転送者〉という単語を使って説明をした。
 あっという間につぶされてしまい、そこに死体はない、と言った。
「ゲートで起こった大規模な事故に父も巻き込まれたんです」
「あなたといたのよね?」
「死の直前まで私といました」
「そう……」
 |義母(はは)は涙をこらえているようだった。
「死を目前でみるのは、さぞ辛かったでしょう」
 私はうなずいた。
 向こうを向いて、|義母(はは)涙を拭いた。
 向き直ると私をじっと見つめている。
「お母さん」
 私は|義母(はは)に抱きついた。何か、そうしなければいけない、という気がしていた。
 きっとそうして欲しい、と|義母(はは)が望んだのだ、と思うのだ。
 抱きつくとすぐに、私は声を出して泣いてしまった。それが引き金になったのか|義母(はは)も私を抱きしめながら、涙を流した。これが死体のない父の葬儀の代わりなのかもしれない、と思った。
 気持ちが落ち着くまで二人で抱き合った後、|義母(はは)は言った。
「死の直前、あなたといたのなら、お父さんは幸せだったと思うわ」
「そうでしょうか」
「お父さんの研究はすべてあなたの為にしていたものだって」
「えっ?」
「人生のすべてを変えてしまった〈某システムダウン〉の呪いから、あなたを救うには〈某システムダウン〉の謎を解き明かすことが必要だって」
「……」
 父は私の為、私の為にあの研究をしていた。そして私の為に死んでしまった。
「私は何もしてあげられなかった」
「死に際まで一緒にいてくれたわ」
「けれど救えませんでした」
「誰にも救えないわ。何百人も無くなった事故なのよ」
 父の言う通り、最初からマミを利用していれば、死ぬ必要はなかった。いや、父の死があったから、マミをコアにささげる決意ができたのだ。
 どちらにせよ、私が父を殺したようなものだった。だから、そのことを母にいう勇気がなかった。
「……」
「自分を責めないことね。この後の人生でもきっと、自分ではどうにもならないことが起こるわ」
 どうにもならないことは、〈某システムダウン〉で経験済みだった。
 〈セントラルデータセンター〉で何度も軍の人間が死ぬところを見た。
 自分だけでは、どうにもならない出来事。
 だから、自分の選択順序だけで父の死は救うことができたのかも知れない、と思ってしまうのだ。
 また瞳に涙があふれてきた。
 そっと近づいてきて|義母(はは)が抱きしめてくれた。
 甘えるように私は体を預けた。



 遺体のない葬儀を終えた後、|義母(はは)はしばらく田舎に戻ると言った。
「卒業して、大学に通うだけのお金は十分あるから、心配しないで。もし、何かあった時は連絡して」
 私はだまってうなずいた。
 百葉から新交通に乗り換え、学校の寮へと向かった。
 この前の巨大〈転送者〉騒ぎのせいか、新交通の乗客はさらに少なかった。
 途中の駅で、私のいる車両の乗客が全員降りてしまった。
 ドアが閉まり、出発してほどなくすると、私は大きくため息をついた。
「はぁ…… もう私、一人なんだな」
 先頭車両にいた人影が反応したように動いた。
「?」
 しばらくすると、人影は連結部分からこちらに入ってきた。
「佐津間ぁ?」