「違う、あの人……」
「?」
「さあ、行こう。出発だ」
 そう言いながら、全員の肩を加山が叩いて回った。
 いつもの通り清川の運転するパトカーで会場となるホテルへ向かう。
 近くまで車が来ると、加山が車を左のスペースに止めさせた。
「清川は署に戻って車を置いて、歩いてこい。我々もここから歩く」
 通りの正面にある、新しくきれいなビル。それが会場となるホテルだった。
 ホテルにつくと、セキュリティカードが渡された。
 亜夢はそれを同じく渡されたフォルダーに入れ、首にかけた。出入りがある場所、警察の要請があった場合は、そのカードをかざして確認するとのことだった。
 刑事である加山も中谷も同じ扱いを受けた。警察は自分の身分証で確認されないのだろうか、と思ったが、渡されている身分証の確認は時間がかかるため、カードを渡すのだという。
「これをなくしたら大変だぞ。慎重に管理して」
 渡している警官が指示する通りに、亜夢は首にかけてから、紐を少し絞って、落ちにくく、取られにくくした。
 三人はその後、配置の場所へ回った。
「外? 外の警戒をして意味があるんですか」
「最終的には内側でなにかことを起こそうとするだろうが、最初は外から入ってくるわけだ。それを止める」
「外は広すぎて、守っているこっちから入ってくるとは思えません。中に入らせてもらえないんでしょうか?」
 加山は表情を変えなかった。
「指示に従わないなら、君に協力してもらわなくてもいい」
「……」
 またこれだ。と亜夢は思った。捕まえたいとか、事件を防ぎたい、というのが本質ではないのだろうか。だから協力をするつもりなのに。
 亜夢はあきらめたように視線を回りに移した。
 この干渉波の状態でも、本当に近くまでくれば超能力者かどうかはわかる。テロリストがこっち側の通路を選択してくれることを祈るしかない。亜夢はそう考えた。
「乱橋くん、出入りできるのは、駐車場と地下鉄の駅、そしてここホテルの通用口の三つ。駐車場に入るには、その右に見えるスロープを下っていくしかないから、集中すれば通用口と車両を同時に抑えられるんじゃない?」
 中谷が指さす位置を確認しながら、亜夢は神経を集中させた。
 やはり干渉波キャンセラーを使っていては外部の状況が分からない。キャンセラーをオフにして、目を閉じて感覚を研ぎ澄ませる。
 強力な干渉波で分かりにくいけれど、スロープの入り口付近を通過する人や、目の前の通用口周辺の人の気配を感じて取ることができた。
「……なんとか、やれそうです」
 中谷が例のアンテナを動かしながら、少しでも干渉波の少ない場所を探す。
 そうやってウロウロしているうち、亜夢から中谷の姿が見えなくなった。
「中谷さん?」
 加山は通用口でカードをチェックしている警官の後ろに立ち、表示される内容を見ている。
 亜夢も同じように、スロープと通用口の出入りを神経を研ぎ澄ませて警戒している。
 しばらくすると首をかしげながら、中谷が亜夢のところへ戻ってきた。
「乱橋さん」
「?」
 中谷がある場所に向かって何度も指し示した。
「あそこ。あそこ、干渉波が異常に少ないんだ」
 亜夢は中谷の指さすところに立ってみる。
「確かに、けれど、不自然に軽すぎます。まるでキャンセラーを使っているみたい……」
「キャンセラーねぇ?」
 亜夢は樹木の影を探すように歩き出す。
「乱橋くん、ちょっと勝手に配置から動かないで」
「中谷さん、ここで測ってみてください」
 追ってその木々の中に入ると、確かに干渉波の値が強く表示される。
「中谷さん。あそこ」
 亜夢は木の高いところに電源線が通っていることを指摘した。
「木の上になんかありますよ。きっと」
「……ほかの方向にもあるはずだな」
 加山が走ってやってくる。