「……ババア声が聞こえる、と思ったらやっぱりお前か」
「なんであんたがここにいんのよ」
「休みの日ぐらいどこに行ったっていいだろ?」
 ん?
 私は素早くスマフォで日付を確認する。
「……休みじゃないわよ。騙されるところだったわ」
「と、とにかくいいだろ」
「あんたストーカーかなんか? 気持ちワル」
「違うよ。その、心配だから……」
 佐津間は私の斜め前のつり革につかまった。
 正面に立てばいいのに、こういうところ、意気地がない証拠だ。
「そう。ありがと」
 佐津間の顔が赤くなった。
「何赤くなってんの?」
「日焼けしただけだっての。で、その、お前、学校辞めんのか?」
 考えもしていなかったことを言われ、びっくりした。
「へっ? 辞めないわよ。父の残してくれたお金があるし」
「そ、そうか。なら、よかった」
 な、なにが良かったの? 私は佐津間の腹を殴ってやろうかと拳に力を込めた。
「な、なんだよ。良かった、って言ったんじゃないか」
「……う~~っ!」
「え、なんだよ、辞めなくて残念とか言った方がいいのかよ」
「正直言うとそうよ。それならぶん殴れるじゃない」
「お、お前がそう言うなら…… 」
 佐津間はつり革から手を離して、目を閉じ、私の方を向いた。
 なぐって欲しい、という事だろうか。
「なんだ、辞めねぇのかよ。残念だな」
「へ?」
「ほ、ほら」
 佐津間が私の手を掴んで、自らの頬の方へ引っ張る。
「どういうこと?」
「殴った方が良いならそうして」
 私は混乱した。
 混乱したのち、カッとなって怒鳴った。
「あんた変態なんじゃないの? Mなの? ドMなの? 本気で殴られたいの?」
「ああ…… 白井に幸せになって欲しいんだ」
 何がなんだか分からない。
 私は立ち上がって、拳を握った。
 佐津間は目をつぶって黙って立っている。
 トン、と拳で佐津間の胸を叩いた。
 私はそれ以上のことができず、目を閉じてしまった。
「どうした? 殴っていいんだぞ……」
「もういいよ」
「ほら、殴れ、殴れってば」
 佐津間の態度と、言い方、自分がこいつに慰められているという状況……
 様々なことが私の意識を飛ばした。
「うぉら!」
 瞬間的に手の甲にハンカチを巻き、佐津間の頬を殴り飛ばしていた。
 佐津間は耐え切れずに床に膝をついて震えている。
「いひゃい……」
「だ、大丈夫? いっとくけど、あんたが悪いのよ。殴れってしつこいから……」
「……」
 立ち上がろうとするが、膝が激しく揺れて、また床に手をついてしまう。
「大丈夫じゃなないよね? だって、こっちも全力だしちゃったし」
 さすがに〈転送者〉を相手にする時ほどの力はいれていない。そんなことをしたら……