〈転送者〉が〈鳥の巣〉の壁を壊したのだ。上から崩れ落ちるコンクリートブロックの塊が、轟音とともに寮の敷地に突き刺さる。
「やばい、すぐこっちくるよ」
「あの鬼、こっち見てるし」
 また黄色い声が上がり、逃げ出し始めた。
 男子寮の方でも騒ぎになっている。
 屋上に出ていた生徒が全員いなくなると、私はマミの手を引いた。
「私達も逃げよう。無理だよ。戦えない」
「お父さんの死」
「えっ?」
 マミはいつの間にか、体の中からコアを取り出していた。
 光り始めているコアを両手で挟むように持ち、それを見つめている。
「キミコのお父さん、なんで死んでしまったのか、考えてよ」
「それは……」
「助けないと。寮の皆を。守らないと。〈鳥の巣〉の外に暮らす人の生活を」
「……」
「私はもう覚悟はできてる。キミコは?」
「そんな…… そんなこと…… 私には……」
 ガン、と大きな音がして、鉄材が落下して甲高い音を立てる。
 砕かれたコンクリートが粉となり、滝のように注がれた。
 あたりが白んで見えなくなる。
 誰かが寮の火災報知器を鳴らしたらしい。
 そして寮内に放送が入る。
「キミコ……」
 私は黙ってうなずいた。
 そしてコアに語り掛けた
『トランスフォーム』
 溶けていくマミの体が広がり私は取り込まれる。
 ジェルの中に包み込まれた私は、人型ロボットの首のしたあたりの操縦席の位置へ上っていく。
 寮の屋上で作り出されたロボットは、金属の翼を広げ、ジェットエンジンて飛び立つ。
『これ以上壁を壊されたら、寮がつぶれちゃう』
 それと、マミに怪我をさせないよう、負担をかけないようにしないといけない。
 あっという間に〈転送者〉の頭上に達すると、宙返りし、鬼の角をめがけて降下した。
 〈鳥の巣〉の壁を壊さないように、もっと内側に誘導しないと。
 降下しながら『何か武器はないの?』とたずねる。
 コアが『翼の付け根にミサイルがある』見えている左隅に、設計図のように本機の図面が描かれ、翼の付け根部分がフラッシュした。
『ミサイル発射』
 発射時に、機体が少しぶれるが狙った〈転送者〉の頭へ向かって飛んでいき、爆発する。
 機体を上昇させて、転回し、〈転送者〉の様子を見る。
 鬼の姿の〈転送者〉は片膝をついて座っていて、左の耳のあたりを手で押さえている。ものすごい量の体液が〈転送者〉の体から出ているようで、押さえた手や、体をつたって滴っている。
 私はコアに『なんであんなことになっているの?』と訊く。
 コアが『あんなこと、とはなんのことだ?』と返す。
『〈転送者〉が体液を噴き出すなんて初めてみた』
『……もしかしたら』
『なに?』
『すまないが、今君の心理を読んだ。〈転送者〉は共感されるように形態を変えたのかもしれない』
『〈扉〉の支配者が?』
 そうだとしたら…… 私は慌ててコアに言う『あなたは、私の心を読んで〈扉〉の支配者に情報を送ったり』すると、コアは『ワタシはマミをベースにしている。マミが〈扉〉の支配者に言いたければ言っているだろう』
『違う。私は事実を知りたいの』
 コアが私の視野にログを表示する。
『君たちの言語で読めるはずだ』
 機体を旋回させながら、ログを読む。