中谷が口を開く。
「署長。我々は、あの、乱橋さんには確認したいことが……」
「メールでも電話でも、確認だけなら、やりようがあるだろう。|都心(こっち)にいると超能力者には負担が大きいと聞く」
 おそらく署長は美優の超能力に何となく気付いているんじゃないか、と亜夢は思う。
 中谷は署長にキャンセラーのことは言い出せず、上げかけた手のやり場に困ったようだった。
「いいな?」
「はい」
 清川と中谷はそう答えると同時に、姿勢を正した。
 
 
 
 陽が傾きかけたころ、亜夢は軍の飛行場にいた。
 加山は別件があってこれず、清川は業務上、ヘリには乗れなかった。中谷が一人、非科学的潜在力女子学園までヘリの旅についてくることになっていた。
 激しい超能力干渉波のせいで、亜夢は顔をしかめていた。
「つらいかい? キャンセラーは、大ぴらになるとまずいから、持ってこれなかったんだ」
「きついけど、だいじょうぶです」
「ヘリに乗れば、またあの南国の楽園さ」
「今回は、中谷さんは出てこなくていいですから」
「ああ。これ以上乱橋君に迷惑かけるわけにはいかないからね」
「……」
 亜夢は少し拍子抜けした。
 調子にのってまたこっちのVR世界に入ってくるだろう、と思っていたからだ。
 用意されたヘリに乗り込むと、亜夢はVRゴーグルをつけられた。
「規則だからね」
「はい」
 超能力者を航空機に搭乗させる場合、安全な飛行の為と他の乗客の安全を守るために超能力者にVRゴーグルをさせる決まりがあった。超能力者に起こる心の不安や、同様が航空機の安全に影響があるからだ。VRゴーグルは、それらをシャットダウンし、心の平静を保つためのものだった。
 中谷が亜夢の付けたVRゴーグルのスイッチを入れると、目の前に南の国の映像が現れた。
 左を見ても、右をみても、透明度の高い海と白い砂浜、青い海、青い空がどこまでも広がっている。
「ちゃんと見えてる?」
「はい」
 中谷はパイロットに合図すると、爆音とともにヘリは上空へと飛び立つ。
 亜夢の頭の中には、目に見える南国の楽園ではなく、美優の姿があった。
「さようなら、美優」
 もう会うこともないだろう。



「そうなんだ、いいなぁ、私もいってみたいな」
 奈々がそうつぶやいた。寮の部屋で、亜夢は美優と出会った、ブランドショップの並ぶ大通りのことを話していた。
「私も、もう次はないかな」
「えっ、亜夢なんかやらかしたの?」
「そういうわけじゃないけど。きっと次は別の人がよばれるんじゃない?」
 あの署長がもう一度自分を呼ぶわけがない、と亜夢は思っていた。
「けどいいなぁ。昔の記憶しかないけど…… 私も都心に戻りたい」
 アキナもうらやましそうに言った。
「結構怖い目にも会ったって、聞いてた?」
「まぁ、それは…… 亜夢だからさ。それはなんとかなったんでしょ」
「どういう意味よ」
「まえ、校長室の前通った時にさ、校長先生の思考を読んで、亜夢の|能力(レベル)のことを知っちゃたんだ」
「?」
「学校で五本の指に入るって。他がだれかまではわからなかったけど」
 亜夢は自身の鼻を人差し指で押さえた。
「私が? 学校で?」
「そうだよ、みんなそう思ってたけど、亜夢はすごいんだよ。特別なの」
「……」