二体の〈転送者〉は挟み撃ちをしようと、私を中心に常に対向の位置に動く。一方を向くと、後ろ側が近づいてくる。半身になれば、両側から迫ってくる。
 しばらく間があってから、鬼塚から答えがくる。
『今、動けない。なんとかなるか』
 なんとかなるか? マミが|危機(ピンチ)で、早く寮に帰らなければいけないのに。すでに一体倒したとは言え、鬼塚は、後二体も私一人で倒せというのか。
『無理です! 助けてください』
『こっちだって動けない時があるんだ。何とかしろ』
『なんとかしろって、どうにもならないです』
『動けない。いいか、繰り返すぞ、俺は動けない』
 警察なのに、キメラの力があるのに、ここに助けに来れないって……
『もういい!』
 私は鬼塚の応援を諦め、新庄先生に|思念波(テレパシー)を送った。
『新庄先生!』
 まったく反応がない。
『新庄先生!』
『キミコ…… 助けて』
 マミが私に助けを求めてきた。
『新庄先生!』
 一番近くにいるはずの新庄先生は、まったく反応を見せない。
 |思念波(テレパシー)は届いているはずなのに……
『キミコ…… 苦しい』
 しかたない……
 私は、翼を広げて飛び上がった。
 通学路を離れて、誰も住んでいない住宅街の上空へ飛ぶ。
 そもそも〈鳥の巣〉周辺のこの一帯は、住人が家を破棄しており廃墟となっていた。
 〈転送者〉は私を追いかけて、道を進み、邪魔なら家を壊しながら進む。
 私は〈転送者〉位置を確認し、その距離を見ながら、高度を下げていく。
 奴らが見えない高さに下がると、細い道路をスピードを上げて飛び、〈転送者〉に気付かれないように通学路へ戻った。
 これで、しばらくの間、時間が稼げる。
 意味もなく無人の家を壊したり、私を探し回って住宅街をウロウロするだろう。その間に私は寮に戻ってマミを助けることができる。
 誰も助けてくれなければ、私が|殺(や)られる可能性だってある。逃げる選択だってあっていいはずだ。
 気付くと、寮の近くまできていた。マミ以外の寮の人間に気付かれる可能性もある。私は翼を収め、通学路を走り出した。
 寮につくと靴を履き替えて、マミの部屋に向かう。
 ドンドン、と扉を叩く。マミと私は同じ部屋だったが、今、私は市川先輩と同部屋に移動になっていて、元々私の居た部屋の鍵を持っていないのだ。
「マミ、大丈夫?」
 苦しそうな声が聞こえる。
 カチッと鍵の開く音が聞こえる。
「入るね?」
 そう言いながら、そっと扉を開ける。
 扉の近くで、マミが苦しそうに床に座っている。
「大丈夫?」
「はぁ…… はぁ…… ママが、私を生んだ時もこんなだったのかな……」
 とりあえず、マミに肩につかまってもらって、立ち上がり、ベッドまで運ぶ。
 誰も入ってこれないように、鍵を……
「そうだ」