「あっ、いや、ない訳じゃないんだとおもうんだけど」
「私と同じだ」
 奈々の両手を包み込むように握って、美優は続ける。
「私も|潜在力(ちょうのうりょく)がわからないの。自分では使えないし」
「マジ?」
 似たような境遇に、奈々も興味が湧いたようだった。
「けど、干渉波の中じゃ眠れなくて」
「それは皆同じだよ。非科学的潜在力女子学園(ヒカジョ)に来る生徒はみんなそうだよ」
 この国では非科学的潜在力(ちょうのうりょく)は危険なものとみなされていた。公共交通機関や都市部には、超能力者が|能力(ちから)を発揮できないように、超能力者だけに効果がある干渉波を出力していた。
 人権問題になるため、その事実は公にされていない。だが、能力を持つものは都市部で生きていけないため、自然と干渉波の密度の低いこういった田舎町に移り住むようになっていた。
「不眠症で医者に行くと、検査されて。検査の結果、この学校に転校することを勧められた」
「そうだね。みんなそう」
「だって、学校の名前が『非科学的潜在力女子』って言ってるんだから、みんな|非科学的潜在力(ちょうのうりょく)があるんだよ」
 四人は顔を見合わせて笑った。

 亜夢、美優、奈々、アキナの四人は同じクラスだった。
 |森明菜(もりあきな)はウエーブした髪が肩まであって、体つきは華奢な感じがするが、目つきは鋭く、一見、不良少女のようだった。念動力や|思念波(テレパシー)が使える。
 |八重洲奈々(やえすなな)は髪型はボブだったが首の後ろは少し刈り上げているくらいのショートボブだった。まだ、自分の|潜在力(ちょうのうりょく)が何なのか、分かっていなかった。
 |西園寺美優(さいおんじみゆ)は髪は長いが、たいていの場合、ポニーテールにしていた。都心の警察署長の娘で、都心に暮らしていたが、家族が美優の能力に気付かない時、テロリストの仲間と思われる超能力者に|精神制御(マインドコントロール)されてしまい、事件を起こした。自ら超能力を使ったことはないが、空間を歪めて銃弾を弾いたり、電撃を放ったりする|潜在力(ちょうのうりょく)があるようだ。
 |乱橋亜夢(らんばしあむ)肩のあたりで切りそろえてあり、大きい瞳は言葉がいらないほど気持ちを伝えている。空気を扱うことに長けているが、体を硬化させたり、|思念波(テレパシー)も使える。
 学校はそういう非科学的潜在力を持った生徒を集めて教育していた。
 この国では超能力者にだけ影響のある超能力干渉波を使って、都心から超能力者を排除していた。学園長がその事態を憂い、その子らに救いの手を差し伸べるとともに、教育の場を与えることが目的だった。
 学園に、|潜在力(ちから)を伸ばすような授業はなかった。
 卒業して、歳をとるに従い、|潜在力(ちから)がなくなっていくのが一般的だった。|潜在力(ちから)がなくなると、干渉波の影響を受けずに生活できるようになる。つまり、|潜在力(ちから)を伸ばすことは彼女達に有利にならないのだ。
 干渉波の下では生活できない生徒を助け、教育をする。
 卒業後もしばらくはこの田舎でくらし、やがて|潜在力(ちから)を失うにつれ様々な街へと散らばっていく。
 亜夢は言った。
「みんな、そうやって超能力が使えたことを忘れていくんだ」
 美優は不思議そうに亜夢の顔を見ていた。
「それは幸せなことじゃないの? 私、年齢が上がれば|潜在力(ちから)がなくなる、なんて初めて知った」
「そうかも知れないけど。私はイヤ」
 アキナがうなずいた。
「クラスの中でも一部の|娘(こ)は私と同じ考えを持っているの。そういう|娘(こ)達で放課後、|潜在力(ちから)を強くするために自主練してるのよ」
「美優もくる?」
「……」
 美優は奈々を振り返った。
 奈々はとまどったような表情を見せた。
「奈々も見学はしているのよ」
「じゃ、見学してみる」