「えっ? 私も昨日、教室の窓に、不自然な人影を見ました」
「えっとな…… うん。あのな……」
 佐藤先生は立ち止まり、階段の壁に手をついた。
「先生?」
「うん。そうだな。あのな。えっとな……」
「先生!」
 そのまま階段の途中でしゃがみこんでしまった。
「……そのな、あのな」
「アリス?」
 アリスが振り返って私の方を見た。
「?」
「先生?」
「あ、うん。もう大丈夫。大丈夫だ。教室に戻ろう」
「……」
 アリスに見つめられている間、先生は何もしゃべれなくなっていたのではないか。
 非常に不自然な会話だった。
 階段をおり、廊下を歩いている時にもう一度試した。
「佐藤先生は、昨日の侵入者の画像は見ましたか?」
「ああ、見た……」
 またアリスが佐藤先生の顔を見た。
 佐藤先生は立ち止まった。
「ん…… いや。すまん。それは、ウソ。それは、ウソだ。先生が、ウソを言ってはいかんよな……」
「先生。侵入者は監視カメラの画像に残っていますよね?」
 私の言葉に反応して、佐藤先生は手で頭を押さえ始めた。
「あっ…… だから…… あのな…… すまん、すまん、すまん……」
 私はアリスの腕を引っ張った。
 佐藤先生が大きくため息をつく。
「ふぅ……」
「あなた、何者なの?」
「だから転校生だよ。北島アリス」
「先生に何をしたの。アリス。あなたの口からいいなさい」
「……」
 アリスの目には佐藤先生が映っていた。
「ほら、こっちを向いて」
 私はアリスの頭を両手で押さえて、自分の方を向かせた。
 アリスの瞳に私の姿が映った。
「あなたは何者なのか答えなさい」
「……」
「えっ?」
「……」
「あなたが何者なのか。どこから来たのか……」
 視野の端に、佐藤先生が頭をかいているのが見えた。
「!」
 その瞬間、アリスが私に抱きついてきた。
 そしてアリスの頬と私の頬が触れあった。
 なんて|肌理(きめ)細かい肌なんだ…… 気持ちいい…… 違う!
 両手でアリスの体を引きはがすと、佐藤先生の方を見た。
 先生は腕を組んで私達の方を見ていた。
 佐藤先生の何かを確認したかったのに、何もわからない。じっと佐藤先生の顔をみるが、普段と同じような、まったく違う別人のような顔にも思えた。