通学路へ戻るところで、学校へ戻る途中のバスが通りかかった。
 物陰に隠れてみていると、バスは〈転送者〉の開けたアスファルト上の大きな穴の手前で止まった。
「あっ……」
 確かに相当に大きな穴だ、と私は思った。
 見ていると、成田さんはバスをどんどんとバックさせて行くと、この道を避けるように住宅街へ入っていった。
 私は穴のところへ行き、位置情報を記録すると、鬼塚刑事に通知した。
『転送者が道に穴を開けてしまって、学校のバスが通れません』
『ああ、分かった。〈転送者〉はどうなった』
『もちろん処分しました。ここから〈鳥の巣〉の壁よりに行ったところです』
 そこまでしてから、私はスマフォをしまって徒歩で寮へと向かった。

 寮に戻り、食堂に入ると北島アリスが座っていた。
 学校でいた時のままの制服姿だった。まるで今帰ってきたばかりのように。
「アリス、あなたここにいたの?」
「?」
 アリスは何もしゃべらない。
 見ている焦点すら、こっちに合わせてこない。
「様子、おかしくない?」
 私は周囲にいた寮生に聞く。
「さっきからこんな感じだったし。知らない子だからこんな感じなんじゃないかと」
 目の前に手をバタバタと動かして、視線が動くか、反応があるかをみた。
 何も…… 動かない。
「もしかして……」
「キミコ、帰ってきてたのね」
 振り向くとマミとチアキ、ミハルの三人が食堂に入ってきた。
「アリスはどうしたの?」
「あなたとは違って、私達と一緒にちゃんと寮に戻ったわよ。オレーシャが食堂で待っていて、というから待ってるんじゃない?」
 チアキがそう言うが、アリスがバスから降りなかったわけがない。ちゃんとこの目で見たのだから。
「けど、反応しない」
「?」
 マミが急いでアリスの横に座って話しかける。
「アリス大丈夫? ほら、このタブレットに書いてみて?」
 マミは自分のタブレットを前に差し出しアリスの反応を待つ。
 アリスはタブレットに手を伸ばすどころか、見さえしない。
「ほんとだ」
 マミも私がしたように、アリスの目の前で手を動かす。
 そのまま、手を鼻と口のあたりに持っていく。
「えっ」
 マミに手を掴まれる。その手はアリスの口元に近づけられる。
「……」
 呼吸…… 呼吸がない?
「息してない」
 マミは立ち上がって、椅子をどかして床にスペースを作る。
「キミコ手伝って。心肺蘇生」
 うなずいて、アリスを椅子から床に寝かせる。
「首の下に何か入れないと」
 マミは上着を脱いでまるめるとアリスの首のしたに入れる。
 私は初めて行う心肺蘇生なのに、アリスの体から異質なものを感じていた。
 両手で押し込む胸部の骨格、つまむ鼻も、開いた口の中も、どこか人のそれと違う気がするのだ。