私は驚いてマミの体にしがみつく。
「アリスの反応は、ごくごく自然なことじゃない」
 まだ自分の心臓の鼓動が聞こえるくらいドキドキしていた。
 急に寮内に放送が入る。オレーシャの声だ。
『今日は部屋点検します。消灯時間のチェックと、施錠の確認も』
「えっ…… マミ、どうしよう」
「どうしようって言ったって。なんか今まで全然やってなかったのを、一気にまとめてやるって感じね」
「怖いからマミに一緒に居てもらおうと思ったんだけど」
「大丈夫だよ」
 マミはそう言ったが、私はアリスの目と口を完璧に開いて寝ている姿を見て、また震えた。
「怖いよ」
「けど部屋点検と消灯時間チェック、施錠確認までするんだから、他の部屋にいたら……」
「そ、そうだよね。うん」
 無理やり引き留めたら、マミが悪者になってしまう。こんなことでマミの成績表に何か書かれたら申し訳ない。
『部屋点検を始めます』
「オレーシャ早いよ。キミコ、ごめん部屋に戻るね」
「うん。大丈夫だから」
 部屋を出ていくマミを見送り、扉を閉め、施錠する。アリスは、体は仰向けになっているのに、顔だけが完全にこちらを向き、口が空き、目も全開状態だった。
「やっぱり怖い……」
 これだけ部屋が明るい状態が続いているにも関わらず、アリスはいまだに目が覚めない。それだけではない私とマミが近くでしゃべったり、アリスの鼻をつまんだりしたのに、だ。
 いや、起きていたとしても、タブレットでしか会話できないのだから、こちらからは判定できない。まさか目口が開いた状態で寝ているのか、起きているのかがはっきりしないとは……
「そうだ」
 アリスの顔を見ているうち、私は確かめる方法を一つ思いついた。アリスのタブレットを枕元において、そのタブレットにメッセージを飛ばせばいいのだ。音が鳴って返してくるなら起きている。返してこないなら寝ている、と判断しよう。
 私はさっそくアリスのカバンからタブレットを探し出し、枕元に置いた。
 音量の設定は…… うん、大丈夫。
 自分のタブレットを開き、アリスを指定してメッセージを飛ばす。
『もしもしアリス起きてる? お風呂どうする?』
 ピポーンと何も設定を変えていない時のメッセージ着信音がなった。
 アリスの目口は開いているが、気づいた様子はなかった。
「やっぱりこれ寝てる」
 大きくため息をついて、タブレットを自分のベッドに放ると、そのまま横になった。天井を見つめて、さあ、どうしようと思った瞬間、自分のタブレットにメッセージ着信音が鳴る。
「えっ?」
 パッと上体を起こすと、アリスに視線を戻す。タブレットを持っているわけではない。それに、アリスから目をはなしたのは一瞬だった。
 今のメッセージがアリスからのものだったら……
 アリスから視線をはずすのが怖くなって、手探りでタブレットに手を伸ばす。
「!」
 タブレットの通知領域に書かれていたのは、アリスからのメッセージだった。
「そんなばかな…… じゃ、これで起きているってこと?」
 まばたきはたまにするが、手足が動く様子はない。
 呼吸はしているが呼びかけには応じない。
「アリス? ちょっと?」
 いっそ体を揺すって起こしてしまおう、と私は思った。そう、完全に起きていることが確認できれば、この妙な恐怖から解放される。アリスの肩に手を掛けようとした瞬間、部屋にノックの音がした。