メッセージを読んでいる間に、アリスは瞬きした。
 ロボットのように見開いたままではないのだ、ちゃんと瞬きする。しかし……
「どうやってこのLANに接続しているの」
『無線装置にアクセスして』
 私はそのメッセージにイラっとした。
「だからなんで無線装置にアクセスできるのよ。生身の人間にできることじゃない」
『私が生身の人間じゃないからじゃないかしら』
 布団を弾くように除けると、アリスは立ち上がった。
「なに、どうしたの……」
 アリスの様子がおかしかった。
 そうしている間にも、メッセージが送信された。
『私はやっぱり〈転送者〉なのかも』
「〈転送者〉なの?」
 アリスは上体を突き出し、両腕をぶらんと下げた。
 ぶるっと肩を左右に揺すると、下に伸ばした指が伸び、伸びた先に大きな爪が現れた。
 足がべったりと広がり、同じように指先から大きな爪が出てきた。
 アリスのきれいな顔が、鼻がどんどんと高くなり、周囲の肌が伸びて、奇怪な表情になる。
「うっ」
 顔の肌が避け、中からヘビのような、緑色の頭が飛び出した。
 同時に、背中から蝙蝠のような爪のある翼が生えた。
「アリス、あなたアリス?」
 視野の隅にあるタブレットにメッセージが入る。
『私はアリス。〈転送者〉アリス。さあ、白井公子。私と戦いなさい』
 もう、ちょっと手を伸ばせばその蛇の顔に触れれる距離だった。
 アリスと同じように、私も足を変質させて爪をむき出しにした。
 ヘビの頭が、鋭く伸びてくる。避けた顔や、まだ人間のままののど元や体が気味悪さに拍車をかけている。
 絡みつくほどは長く伸ばせないのか、かみつこうとして空振りすると、胴の方へ引っ込む。首を伸ばすために、アリスの手足は机やベッドを強く抑え込んでいるようだ。
 首を伸ばしてかみつけない、と判断したのか、今度は首をひっこめ、手の爪を振ってくる。
 首ほど長くない手を届かせようと、アリスは前に踏み込んでくる。
「コアはどこ?」
 これが〈転送者〉ならコアがあるはず。
 私は足を前に蹴りだして、アリスの突撃をけん制する。
 コアが見えないなら、とにかく動かなくなるまでやるしかない。ズタズタに切り裂くまでだ。
 いつもとは違う、強烈な闘争心が湧き上がってきた。
 アリスの爪を避けるのではなく、カウンターを取りに行くように踏み込んだ。
 アリスは再びヘビの口を開き、首を伸ばしてくる。
「引き裂いてやる」
 口を上下をと同時に捉えると、腕を広げた。アリスの顎の力と私の腕の力比べになった。
 腕を左右にしてヘビの頭をねじる。
 バシャっと体液が床にぶちまけられた。ヘビの頭は裂け、アリスの体からぶらり、と垂れ下がった。
 アリスはなおも手の爪を振り回しながら、私に向かってくる。
「どこで見ているの」
 左、右と手首を捕まえて動きを封じる。
 アリスの足が正面を蹴ろうと伸びてくる。
 体を曲げながら避けると、そのまま軸足を蹴り払う。
 捕まえていた腕をはなすと、そのままアリスは仰向けにひっくりかえる。
 アリスの体に乗って抑え込み、ヘビの首を何度もたたき、引き抜いた。
 一瞬、手足が痙攣したようだが、手足が再び動き出して抵抗する。腕の付け根を押さえながら、足先でアリスの腹を何度も蹴った。