「そんなわけないじゃん。あの子が、急に、『そうじゃの』とかババアみたいな話口調になるってこと?」
 美優は肘をまげて手を上向きに広げ、ありえないわ、と言わんばかりのゼスチャーをする。
 亜夢は美優に向かって言う。
「美優。『ハツエ』かどうかは、私にもわかんないよ。けど、美優を救ってくれるなら、どっちでもいいじゃん」
「亜夢……」
 美優は感動して亜夢と見つめあう。
 奈々が少女の方を向いて、言う。
「そこが大事だよね」
 アキナが髪の毛をかき上げながら言う。
「もう一度本人に確かめればいいだろ」
 四人は横並びに歩いてハツエを名乗る少女に近づいた。
 立ち止まると、一拍おいて亜夢が前に出ると言った。
「『ハツエ』さん。|精神制御(マインドコントロール)に対抗する方法を教えてください」
 美優が亜夢の手を引いて言う。
「(いきなりなに言ってんの)」
 ハツエを名乗る少女の、お菓子を食べる手が止まった。
「おねぇちゃん達、あたしを『ハツエ』だとおもうの?」
 全員がバラバラではあったがうなずいた。
「へぇ…… それなら、けいこしてあげてもいいよ」
「けいこ?」
 ハツエはうなずくと、美優を指さして言う。
「このおねぇちゃん、くろい人影がみえるもん。けいこすれば、はらえるよ」
「なんの『けいこ』?」
 亜夢が腰をかがめてハツエにたずねる。
「だって、おねぇちゃん達、みんなヒカジョでしょ。けいこっていうのはヒカジョのチカラのことよ」
 亜夢が振りかえる。
「ヒカジョのチカラって?」
「|非科学的潜在力(ちょうのうりょく)のことでしょ」
 奈々がそう答えると、ハツエは笑いながらうなずいた。
「そう、その、ひかがくてきせんざいりょくのこと」
「ハツエちゃん非科学的潜在力、使えるの?」
 亜夢が聞くと、その場にいた全員に|思念波(テレパシー)が届く。
『使えるに決まっとるじゃろうが。これから、おまえらを指導するんじゃから』
 ハツエは微笑んだままだった。
「えっ?」
 美優と奈々は何が起こったか分からなかった。
 亜夢がアキナと顔を見合わせ、
「じゃろうが、って言った」
「うん。漫画みたいな老人の語尾だった」
 ハツエは四人に向かって歩きだしたと思うと、すり抜けて、坂上へ歩き出した。
「おねぇちゃん達、こっちよ。下にあるお家はハツエのお家じゃないの」
「ハツエさん。なんで子供言葉?」
 亜夢が走ってハツエの前に回り込む。
「まさかハツエさん。あなたこの小さい子供の|精神制御(マインドコントロール)をしているんじゃないでしょうね」
 美優と奈々は、なんのことを言っているのか、意味がわからないようだった。
『この心と体の関係は、後で説明する。美優がされたように、|儂(わし)がこの体を乗っ取っている訳ではないぞ。この体は正真正銘|儂(わし)のじゃよ』
「じゃあ、なぜ、口にするときは子供の言葉なんですか?」
 ハツエは腕を組んで仁王立ちした。
『わからんやつじゃの』
「(亜夢とハツエちゃんは、なにやってるの?)」
 二人の様子を見て、奈々がアキナに問いかける。