『そんなバカな。ありえない。完全に人の姿をしていたでしょう? 授業に出席していたって聞いたし』
 私は脱力したように扉に体を預けた。
『信じてもらえませんか』
『北島アリスもそこにいるんでしょう? じゃあ開けて部屋に入れて』
『入る前に、私のいう事を考えてもらえませんか。北島アリスの顔が裂け、ヘビの頭が出てきたんです。私はその牙に砕かれかけた。だから……』
『わかったらから開けなさい』
『信じてくれましたか』
『ええ』
 私は祈る気持ちで両目を閉じ、扉におでこを付けた。
 そして大きく息を吐いてから、鍵を開けて新庄先生を招き入れた。
「えっ?」
 私は素早く扉を閉じ、鍵をかけた。
 先生は部屋の奥に進み、アリスの遺体を確認した。
「これは……」
「〈転送者〉です。北島アリスは〈転送者〉です」
 先生が怒ったようすで振り返った。
「あなた…… なんてことしたの」
「えっ? だって、見えるでしょう、この首から先がヘビに」
「ああ…… 分かった。はいはい。落ち着いて。ちょっと先生は寮監の部屋に戻るから、そこを退いて」
 私は端に避けた。
 逃げるかのように素早く扉に移動し、鍵を開けて出ていく。
 私は慌ててその後を追い、扉を閉め、鍵をかけた。
「白井さん。そのまま触れないのよ。この部屋にいるのよ」
「はい」
 扉越しに、新庄先生が走り去っていくのが分かった。
 新庄先生が信じてくれたのかどうかは、しばらくして分かった。
 寮に大きなサイレンの音が聞こえてきた。
 さっきの救急車のものではない。
 鬼塚刑事らしき思念波が感じられる。
「新庄先生……」
 新庄先生は、あのヘビの首や、大きな爪を持つ手足をつけた姿をみて『北島アリス』と判断したのだ。
 確かに頭以外は…… 手足の大きな爪はどう説明するつもりなのだろう…… どこをみても〈転送者〉と判断するしかないだろう。最後の望みは、鬼塚刑事が私を守ってくれることだった。
 騒がしい男の声が聞こえてきて、数人が階段を駆け上がってくる。
 ドンドンドンと、扉が叩かれた。
 その後、呼びかけもなく鍵が挿入されて、カチャリ、と扉が開く。
 私はどうすることもできず、ただ北島アリスの亡骸を見つめたまま、振り返らなかった。
「白井、お前、人を殺したのか……」
 鬼塚刑事の声だった。
 私は自分の耳を疑った。
 どこが? これのどこが人に見えるの?
「そこに手を付け」
 ドン、と壁に押し付けられる。
「どんな凶器を隠しもってやがるんだ」
 なんだろう、こんなことを言う鬼塚刑事を私は知らない。
「ほら、もっとこうだ」
 股に手を入れられ、足を開くように指示される。
「へへっ、良い恰好だな」