鬼塚刑事と一緒に入ってきた警察官が、私の背中に触れ、なでるようにお尻をさわる。
「ほら、このあたりなんて、たまんねぇ」
「やめてください」
 壁から手を離し、男を振り払おうとした。
「いつ離して良いと言った」
 鬼塚刑事が、私の手を強くつかんで壁に押し付ける。
「い、痛い」
「言ったろう、足を広げろ。凶器を所持していないか確認する」
 さっきなでるように触ってきた警官が、私の首、肩、脇、胸と服の上から触ってくる。
 壁に手を付けて、お尻を突き出している格好のせいなのか、警官の体がお尻に触る。
「なんだ、胸ねぇなあ。面白くない」
 手をどんどん下にさげてきて、腰をまわり、大事なところを触れてくる。
「あのっ」
 警官の手はさらにエスカレートしていく。
「なんだ。ここに隠しているのか」
「何も持っていません」
 ドン、と壁を叩く音がした。
 私もビックリしたが、後ろの警官も驚いて手を止めた。
 壁を叩いた、鬼塚刑事が言う。
「素手であんな殺害は出来ない。顔が裂けている。何か凶器となるものが出てくるまで徹底的に探せ」
「だとよ。下着の下に隠してるかもしれねぇからなぁ…… 続けさせてもらうぜ」
「あなた警官なんですか、そのチンピラみたいな言葉の使い方」
 私が睨み付けると、鬼塚刑事が口をはさむ。
「国家の為か、特定個人の為なのかが違うだけで、仕組みは似たようなもんだ」
「ってことだ。ほら、手を付けって言うんだ」
 このまま屈辱的な扱いに屈するか、翼を出して抵抗し、この場から逃げるか。
 鬼塚刑事がもしキメラの力を使ったなら、この場にいる警察官に自身の秘密を知られてしまうことになる。私はキメラであることが分かれば、学校にはいられないだろうし、社会的にどうなるか…… 逃げ回らなければならないだろう。
 しかしこのままこの下劣な警察官の手で辱めを受けるままで、その上で殺人犯の容疑者として拘束されてもかまわないのだろうか。万一の可能性にかけて、翼を使ってでも逃げるべきなのだろうか。
「なんで……」
 警官の手が下着の中に差し込まれた時、私はこの状況に耐え切れなくなった。
「私は我慢しない」
「なんだ?」
 そのまま翼をまっすぐに広げ、背後に密着していた警官をふっ飛ばした。
 壁に強く打ちつけられた警察官は、うなり声をあげて自信の頭を手で押さえた。
「白井、お前!」
 鬼塚刑事が翼を掴もうとした瞬間、翼を体の中へ引き戻し、部屋の窓へ走る。
 北島アリスの死体を踏み越え、翼を畳んだままガラスを頭で割り出る。
 地面にぶつかる前に、翼を広げて、速度を殺す。
「さようなら。マミ」
 学校の寮にさようならを告げると、私は翼を使って飛び立った。行く先は〈鳥の巣〉しかない。目の前にあるから、というだけでなく、避難区域である〈鳥の巣〉であれば警察の捜査も容易ではないだろう、と思ったからだ。
 高く飛び上がり、〈鳥の巣〉の壁にあるカメラを見た。
 もうカメラに対して顔を隠す必要もない。
 私は〈鳥の巣〉の中をしばらく飛びながら、危険のなさそうな街を探し、そこに降り立った。
 街、と言っても〈鳥の巣〉内には一部を除いて民間人はいない。某システムダウンで大量に発生した〈転送者〉は現在〈鳥の巣〉と呼ばれる区域に大量に発生し、〈転送者〉は破壊と殺戮のかぎりをつくした。