今、そんな〈鳥の巣〉内いるのは軍人と警察官、民間人はデータセンターで作業するボランティアのエンジニアだけだ。
 街があってもすべての建物は〈転送者〉の破壊されたか、〈転送者〉がこないように軍隊によって扉や蓋が破壊されていた。それは、とても人の住めるものではなかった。
 おそらく、食べるものなどないのだろう。
 私は、そう思いながら、廃墟の街を歩いた。街灯も点かない通りがこんなに歩きにくいとは思わなかった。何もないと思われる場所でなんども躓いた。
 歩きながら私は考えた。やがてはここも警察に捜索されてしまうのだろうか。それとも、あの遺体が人間でない、と分かれば私は無実になるのだろうか。それとも、別の罪、〈転送者〉が誰の所有のものかは分からないが、他人の所有物を破壊したような罪で捕まるのだろうか。
「マミ……」
 私はマミのことを想って空を見上げた。雲の隙間から、月の光が差してきた。
 そんなわずかな明かりでも、かなり歩きやすくなる。
「ぐぅぅぅぅ」
 突然お腹が鳴った。
 寮で夕食はとったはずだが、北島アリスとの格闘や、ここへ来るまでの飛行せいだ。自分の体が疲れているのは分かっていた。けれど……
「こんな気持ちの時でも、お腹は空くのね」
 〈鳥の巣〉内で食べものを探すとしたら、と私は考えた。〈鳥の巣〉のゲート付近にある警察署に忍び込むか、セントラルデータセンター近くにあり、扉なしで運営しているという謎のホテルを襲うか。あるいは、交代で警備している軍隊も多少の食料なら持ち込んでいるかもしれない。
 いずれも今の私に出来ることとは思えなかった。
「この街には本当に何もないのかな」
 扉という扉を壊された建物を歩きながら、コンビニの看板を見つけ、そこに入ってみる。
 スマフォの光を付けて、室内を見渡す。『慌てて逃げた』といった様子の室内は、大部分の商品がそのままだった。しかし、食べ物がおいてありそうな棚を見ると、ほとんど残っていなかった。わずかに残ったビニール袋は、中に黒ずんだ液体が見えた。食べ物だったものが、腐って溶けてしまったのだろう。
「ダメか……」
 一方で、救いとしては缶やペットボトルのジュース類があった。私は無難なところでコーラを開け、見た目や匂いを確認した。スマフォの明かりでは極端すぎてこれが正しい色なのかわからない。
「う~ん……」
 少量を口に含む。
 室温の暖かさであること以外は、普段飲んでいる飲み物と同じだった。私はそのまま飲み始めた。
「うん。大丈夫」
 これで糖分と水分は確保できた。扉はないが、雨風もしのげる。
 安心したせいか、急に眠くなってきた。私は近くに置いてあった段ボールを広げて敷き、その上に横になった。



「また自習? どうなってるのこの学校は。月に何時間自習になってるのよ」
「いいじゃねぇか。なぁ、白井」
 佐津間が私の肩を叩いてくる。
「気安く触らないで」
 肩だけを回すようにして、乗せられた手を外す。
 廊下に何者かが通った影が映る。
「誰?」
 私は思わず廊下に跳び出していた。
 廊下に粘り気のある透明なジェルが付着していた。
 そのジェルの先を追っていくと、直径が背の高さほどあるカタツムリを発見した。
「えっ?」
 カタツムリの殻の陰から、先生が出てきて言う。
「今日から転校してきた、アリス君だ」