駅を越えて、少し山を登ると、少しだけ南に向いたゆるい傾斜があって、そこにログハウスが立っていた。
 ハツエが扉に手をかざすと、内側でロックが回る音がした。
「ほら、はいっていいよ」
 ハツエが靴を脱ぎ散らかして家に入っていく。
 パチパチと、飛び跳ねるようにスイッチをいれると、部屋の灯りがついた。
「広い」
「天井高い」
「いいでしょう、ハツエのお家」
 金髪の少女は両手を広げてそう言った。
 美優がソファーのあたりに立って、「ここに座ってもいい?」と訊くと、ハツエが「いいよ」と答える。
 大きくため息をついて美優がソファーに腰かける。
 奈々は窓の近くに行くと、カーテンを大きく開き、窓の外の景色を眺めた。
「海が見えるのね」
 ハツエは跳ねるようにして、奈々の方に行き、「反対側は山も見えるよ」と言ってそっちの窓まで連れていく。
「ほんとだ。こっちの景色は落ち着いていていい雰囲気ね」
 台所の方へ入り込んだアキナが言う。
「冷蔵庫開けてもいいか」
 ハツエが走って冷蔵庫に向かと、「いいよ、と言って観音開きの扉を一度に開く。
「おっ、ミルクもらってもいい?」というと、ハツエは「あたしも飲む」と言ってコップを二つ出した。
「他に飲みたい人いるか?」
 奈々は外を見るのに夢中、美優は疲れたのかソファーで目を閉じている。亜夢は部屋の真ん中で立って二人を見ていた。
「亜夢はいる?」
 亜夢は首を振る。
 透明なコップに白いミルクが並々と継がれる。もう一つのコップには半分ぐらい。
 ハツエは半分のミルクをグイッと飲み干し、流しにコップを置くと、亜夢のところに行った。
「おねぇちゃん、どうしたの?」
 亜夢は腰を落として、ハツエと目線を合わせた。
 ハツエの口に白い髭のようにミルクがついていて、亜夢はそっとハンカチでぬぐった。
「ハツエちゃん。精神制御されないような、何か良い方法はない?」
「おねえちゃん、ちょっとまじめすぎない?」
 ハツエはそう言ってから|思念波(テレパシー)を使って、亜夢だけに付け加える。
『何事も、オンとオフが大事なんじゃぞ』
『それはわかります。けど、この連休しか時間が』
 ハツエはソファーで目を閉じている美優に目をやる。
『コントロールされとるのは、あの|娘(こ)じゃったの。あの娘と窓際の娘は、まず、自らの|非科学的潜在力(ちから)を解放する必要がある』
 亜夢は美優と奈々の姿を見た。
『いままでできなかったことが突然できるようになるんでしょうか?』
『なる。だからここに連れてきたんじゃろうが?』
『校長が何か術を教えてくれるだろうということでした』
『素質があるからヒカジョに通っとるんじゃろ』
 ハツエは、馬跳びをするように亜夢の頭を飛び越えた。
 おどろく亜夢が振り返るまもなく、もう一度じゃyんぷして、亜夢の首を股に挟んだ。
「おねえちゃん、かたぐるまして」
 亜夢は、ふらつきながらそのまま立ち上がった。
 ハツエが指さす方に歩く。
「おねえちゃん」
 奈々は窓から海を見ている。
「海を見てるおねえちゃん」
 ハッとして奈々は振り返り、亜夢の上にいるハツエに驚いた表情を見せた。
「な、なに? ハツエちゃん」
「海で遊んできなよ」