「このカタツムリが?」
「お前の教室に案内してあげろ」
 そういうと教師の姿が消えた。
「アリス、教室に行こう」
 私が言っても、かたつむりは反応しない。
「ほらっ、あっちだよ」
 殻を両手で押すが、ビクともしない。
「お願いだから言うこと聞いて」
 体重をかけて、力いっぱい床を蹴りだすが、まったく動かない。
「ん?」
 廊下の先に動く人物の影を見つけ、私はそれを追いかけた。
 曲がり角で、その動く人物の姿を捉えた。
「マミ!」
 マミはこっちをみて笑っていたが、こっちを向いたまま、ぐんぐんと離れていく。
「待って」
 急いで廊下を追いかける。曲がり切れずに、壁に当たりそうになって、転んでしまった。
「マミ」
 床を四つん這いになって、追いかけると、廊下の先からヘビが出てきた。一匹、二匹、三匹、…… 数が増えていく。
「誰、そこに隠れているのは」
 廊下の先は黒い霧のようなものが浮かび、壁の様子を見る限り、建物ごと消えているかのようだった。
 蛇は重なって床に溢れ、数を数えるような段階ではなかった。
「アリスなの?」
 一匹のヘビが鎌首を持ち上げると、そこに寄せ集まるようにヘビが集まり人の形を作り上げていく。
 蠢く蛇が人型になった時、そこに学校の制服が着せられた。
「北島…… アリス?」
 私は名札を確認した。
 手足はヘビのそれではなくなって、白い人の肌のように変質していた。
 こちらに向かって歩き出した、と思った瞬間。
 アリスの首がもげ、赤い体液を噴き出した。
「さようなら」
 声に振り返ると、そこにはマミが立っていた。
 涙を流しているようにも見える。
「マミ、違う。私が、殺したんじゃない。マミ、誤解よ」
 自分の涙でマミの姿が見えなくなる。
 マミが何か言ったようだったが、後ろで吹き上がる体液の音で聞こえない。
「なに? なんて言ったの?」
 マミに近づいて顔を見た。
 その顔はなじみ深い、記憶にある顔だった。
「えっ?」
 マミの体についているのは私の顔だった。



「うわっ!」
 その自分の声が床に響いて目が覚めた。
 見えるのはただ闇だった。顔に当たる感触で、ここが〈鳥の巣〉内のコンビニで、段ボールをしいた上で寝ていることを思い出した。
 頬を伝って段ボールにぽとり、と音がした。
「泣いてたんだ、私」
 袖で涙を拭った。
 体を横にして、手足をこれ以上ないほど縮めると、少し暖かく感じた。
「もう帰れない……」