「おねえちゃんと私も外に出るのよ」
 亜夢は自分の靴を履いてから、小さな靴を拾い上げると肩の上に乗っているハツエに履かせた。
「アキナおねえちゃん。ちょっと出かけてくるけどちゃんと勉強するのよ」
 ちょっと間があいて、暗い感じの返事がきた。
「はーい」
 玄関を閉めると、ハツエが|思念波(テレパシー)で伝える。
『それじゃ、訓練を始めるぞ』
「はい」

 亜夢の訓練は、山登りから始まった。
 ハツエを肩車したまま、家の前の山を上った。
 山には獣道のような、少し草がつぶれているような道しかなく、表面はでこぼこしていて平坦なところはなかった。
 なおかつ、ハツエに木の枝や草の葉を当てないように、かがんだり、迂回したりしなければならい。
『これ、たらたらと歩くな。走るんじゃ』
「無理です」
『お前には|非科学的潜在力(ちから)があるじゃろ』
 それまでにも超能力のアシストを使っていたのだが、いままで以上に力をつかい、小山の頂上まで登り切った。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
 ハツエの家が小さく見える。
「もうすこしやすんだら、くだりはもっとスピードだすのよ」
「無理です……」
 二階建ての家の十倍ぐらいの高さはあるだろう。
 それに下りの方が体の負荷は大きい。
 ハツエは家の方を指さす。
『このくらいの高さなら、一度にジャンプして下りればよかろう』
「あなたを肩車した状態でジャンプするのは無理です」
『やったこともないのに? 無理じゃと?』
「失敗すればあなたも危険なんですよ」
『わしは危険じゃないぞ。わし自身も|非科学的潜在力(ちょうのうりょく)は使える。そもそも、もういつ死ぬかもわからんから、すこしぐらい無茶してもらってもかまわん』
「私一人でジャンプするのだとしても、です」
「……」
 ハツエはぴょん、と亜夢の肩から飛び降りて向き合った。 
『限界を作っているのは自分自身だということに気付くことじゃな。まずはわしと下りの競争をするか』
 ハツエは山の下に向き直って、かけっこのスタートの姿勢をとる。
「よおーい、どん」
 ハツエはぴょーんと飛び上がった。
 一度にしたまでジャンプはしないものの、かなり下まで一度に降りてしまう。
「ま、まって」
 亜夢も遅れてスタートするが、こわごわと腰が引けてしまっていて、スピードを出して降りていくことが出来ない。
 何度かハツエをまねて、飛び降りようとするが、|非科学的潜在力(ちょうのうりょく)が逆に働いてしまい、スピードが殺されてしまう。
 亜夢がようやく下に降りた時、腕を組んでいたハツエが言った。
「やっときたね。じゃ、もういっかいやるよ」
 にっこり笑ったハツエが、ぴょんと飛び上がると、吸い付くように亜夢の肩の上に乗った。
「すたーと!」
「上りなら!」
 亜夢は力を使って、ぐんぐんと上っていく。
 さっきよりも大胆にショートカットし、早いペースで山を上がっていく。
『そうじゃ。自分で限界をつくるな。まだやれる』
「はぁ、はぁ、はぁ……」
 ハツエが肩から降りると、まるでスキー板でも履いているように、スラロームしながら降りていく。
「いそいでおりてきて」