私はこちらの建物側から入ることに決めた。
 舗装道路もいくつもあるため、なるべく障害物の多い場所を見つけて通った。
 車の音がたまにするが、それは近くを通っている高速道路から聞こえるもので、空港へ行く道に車両の姿はなかった。
 〈転送者〉が出てしまう為に、扉という扉は破壊された。あるいは、〈転送者〉が出てくる過程で破壊されていた。ただ、すべてが処理されている保証はなく、いつ〈転送者〉が出てきても不思議のない場所だった。すくなくとも私の記憶のなかでは、たくさんの〈転送者〉が現れる印象しかない。
 空港の巨大な建物を目前にし、それを見上げた。
「お母さん」
 母はここで亡くなった。
 友達と別れてしまったのもここだった。
 〈扉〉の支配者からの映像で、記憶が少しだけ蘇っていた。前回はそんな記憶もなかったし、何しろ夜中だった。今なら、もっと手がかりがつかめる。私は空港の建物に足を踏み入れた。
 24の付近だった、と私は空港の案内図をみた。
 滑らかだったはずの空港内の床は、〈転送者〉や軍の戦いによって穴だらけになっている。
 私はカメラに注意しながら、死角となるようにあるいた。空港内のカメラは〈転送者〉を察知するために、軍が監視しているのだ。軍につかまれば、私は警察に突き出されてしまうだろう。
 24番の近くまでくると、そこで拾った帽子のことを思い出した。
 その帽子は全体が黒いキャップで、つばの上だけが白く、ピンク色で文字が書かれていた。
「たしか、この近く」
 帽子を拾った場所だ、と思われた。私は他の手がかりがないか、あたりを見回した。
「鴨川(かもがわ)美琴(みこと)」
 私を呼んだつもりなのだろうか、と思い、声がしたあたりを見るが、姿は見えない。
 鴨川美琴…… 私がここで見失った友達の名前だ。
 まさか本人…… が自分の名前を呼ぶわけはない。とすれば、声の主は、美琴を知っている人物だ。
「誰かいるの?」
 カメラの位置を気にしながら、そっと動く。
「美琴のこと、知ってるの?」
 急に反応が無くなった気がする。
 目の前に、さっと動く影が見えた。
 今のは、もしかして…… 美琴?
 その姿は私と同じくらいの年恰好に思えた。根拠はそれだけ。後は直感がそう言っている。思いつくのがそれしかないためなのかもしれないけれど。
「なぜ逃げるの?」
 私が追いつくと、その影が次の場所へ移動するようだった。
 何か誘いこもうとしているのだろうか。その人影が味方ではなかったら。
 そう考えて足が止まった。
 けれど影が敵だとすれば、追わないでいれば、今度は後ろを取られてしまう。
「……」
 そういう意味は選択肢はないのだ。影を見極めなければ、空港を調べることが出来ない。
 追いつくと逃げる、追いかけっこの末、急に天井が高いホールに出た。
「ここって……」
 私には見覚えがあった。以前、〈扉〉の支配者を名乗るものに呼び出され〈転送者〉との戦った場所だ。
「!」
 急に後ろから肩を叩かれた。
 私はゆっくりと両手を上げた。
「なに? 急に手を上げて」
 声に心当たりはなかった。
「もし私が悪者だったら、肩を叩いたりしないわ。そのまま後頭部を撃ち抜く。あるいは麻酔をかける。相手に選択の時間を与えたらだめよ」