確かにその通りだ、と私は思った。背後を取ったチャンスを逃すのは間抜けな悪党だ。
「あの、あなた悪者じゃないんですか?」
「あなたが判断するのよ?」
 ゆっくりと体を後ろに向けると、その人は私の肩から手をどけた。
 黒いキャップをかぶり、スカジャンにショートパンツ姿の女の子だった。
「は、はじめまして」
「ぷっ!」
 そう言ってから、スカジャンの女の子は笑い始めた。
「まだ手を上げたままなの? 私悪者認定されたまま?」
 けれど避難区域に指定されている〈鳥の巣〉内で、『普通の女の子』がいる訳がない。当然、『普通の男の子』もいないだろう。笑ってはいるが警戒を解くことはできない。
「こうやって腹を抱えて笑っているふりして、すぐ後で、銃口を向けたりすると思うの?」
 女の子は急に真顔になり私を睨んだ。
「あなたと同じよ」
「?」
「口で言わなきゃわからない?」
 私はうなずく。
 女の子は指で銃の形を作って、自らの首に撃つ仕草をした。
「某システムダウンの時、私はこの空港にいた。そして偽救急車である組織に連れ去られた」
 私は〈扉〉の支配者からの映像を思い出していた。
 私が『殺された』と思った映像…… カチューシャをした連中に運ばれ、救急車に載せられた。まさか、この人も。
「その組織は某システムダウンが起こることを知っていた。|予め(あらかじめ)〈転送者〉で最大の混乱が起こるこの空港を狙っていたのよ」
「私を連れ去った救急車、カチューシャをした集団」
「そう。私も同じよ」
 女の子はうつむいて、目を閉じた。
 力をいれたように口が歪むと、彼女の下半身に変化が起きた。白い四つ足が現れた。足の形は馬のようだった。
「ケンタウロス?」
「私もキメラよ。あなたは、カラス、だったわね」
「!」
 下半身が馬の姿から、元の姿に戻った。
「なぜ知っているか、って思っているわね。私は体質的に麻酔が効かないの。だから、研究室へ連れ込まれたあなたたちが、改造される様子を見ることが出来たの」
 私には体に何かされた記憶は一切なかった。
 それは鬼塚に聞いても、新庄先生に聞いても同じだった。
 確かにこの人の言うように、麻酔をかけたまますべてが行われたのであれば、私達に改造された時の記憶がないのは納得ができる。
「あなたの他にも知っているわよ。トラを組み込まれた男のひとと、蛇を合わせた女の人もいたわ。もっとも、私の後の人の事は知らないの。私を改造する番になって、通常の麻酔が効かない、と分かった時から部屋を隔離され、別のやりかたで麻酔をかけられたから」
 トラは鬼塚刑事で、蛇は新庄先生だ。あてずっぽうだったら、私以外の二人のことまで当てられないだろう。この女の子は本当に私達が改造を受けるところを見たに違いない。
「信じてもらえたかしら」
「ここまでは信じるわ。で、あなたはなぜこの〈鳥の巣〉内にいるの? ここは立ち入り禁止区域よ」
 女の子は手を広げて笑った。
「あなたと同じ。一つは〈転送者〉を倒す為。もう一つは、〈鳥の巣〉の外に入れられない理由が出来たから」