美優は少し急ぎ足で歩き始めた。
「そうだよ。そんなに時間ないから、早く行って遊ぼうよ」
「う、うん」
 駅を過ぎ、ジグザグに下りながら、海岸へと降りた。
 小さいが、何件か家が建っており、その先に小さい砂浜が見えた。
「あそこだね」
 美優が小走りに走っていくと、奈々も追いかけるように走った。
 砂浜の上にレジャーシートを置き、そこに二人は座った。
 海水浴日和だったが、他に浜には人がいなかった。実質的には二人だけのプライベートビーチと言える。
 美優がスウェットを脱ぎながら言った。
「暑いね~」
「そうね」
「波打ち際まで行ってみようよ」
 奈々は立ち上がってお尻を払っている美優を見ていたが、立ち上がらなかった。
「私荷物みてるよ。美優、行ってきて」
「えっ、だれもいないから大丈夫じゃない?」
「……」
 奈々は美優の視線に耐え切れずに、周りを見回した。
「ほら、家があるわけだし、だれかいるかもしれないし」
「大丈夫だよ。一人じゃバカみたいじゃない。一緒に行こうよ」
 美優はジャケットを脱がない奈々の手を引っ張って、立ち上がらせようとした。
「いいよ。順番で。ね、順番」
「わかった……」
 美優はあきらめたように手を放し、下を見ながら波打ち際の方に歩いて行った。
 奈々は膝をかかえてじっと美優を見ていた。
 ハツエが言ったのは、私のこういうところを直せ、ということなのかな。だから遊んで来い、って言ったのかな。
「きゃっ!」
 波打ち際でバシャバシャしていた美優が、急にひっくり返った。
「大丈夫?」
 奈々はジャケットを脱ぎ捨て、美優のもとに走った。
「ど、どうしたの? 何かいた?」
 しりもちをついたままの美優は、にっこりと笑った。
「何もいないけど、波で足を取られた」
 奈々に手を貸してもらって達がる美優。
「な…… なんだ、びっくりした…… !」
 その時、また大きな波が打ち寄せる。
 有段者の綺麗な足払いが決まったように、二人はひっくり返る。
 飛び散る波しぶき。
 奈々は顔についた海水を手で払いながら言う。
「しょっぱい」
「あははは!」
 美優が笑うと、奈々もつられて笑い始めた。
「海だから、しょっぱいよね」
 そうしている間にも、ザザーっと波がやってきて、二人の手足にぶつかりしぶきを上げる。
「うわっ、しょ、しょっぱいしょっぱい」
「あははは」
「面白いね。海って面白い」
 奈々は手を叩いて喜んだ。
 二人は、びしょ濡れになりながら笑いあった。



 亜夢は顔を両手で覆い、さっきの事を思い返していた。
 スピードを上げて山をおり、ハツエに追いつくかと思った一瞬、ハツエに気を取られ過ぎた。
 目の前に迫っている幹にぶつかる…… そんな距離だった。
『避けきれ……』
 慌てて顔の前に手を差し込み、クッションにしようと思うが、勢いが付きすぎている。