亜夢はアキナの言葉に反応せず、じっとカードを見つめた。
「むむっ」
 アキナも汽車の中で遊んでいた時の亜夢とは違うことを感じた。
「どうしたの、亜夢なんか落ち着いてるじゃん? これでしょ?」
 アキナは、つまんだカードをブルッと揺らした。しかし、亜夢は我慢した。
「うーん」
「そこ、長いよ」
 と美優が言った。
「まだ一周もしてないし」
 アキナは、美優の表情を見て、少し慌てて亜夢のカードを引き抜いた。
「アッ」
 アキナはジョーカーを引いてしまった。
「えっ、何? 何?」
 奈々がアキナの顔を覗き込むように言った。
 アキナは冷静に手札を並び替えてから、奈々に向き直った。
「ねぇ、今のなに? 絶対ジョーカー引いたでしょ?」
 アキナがこう小声で言っていた。
「(おかしい、電車の時の亜夢じゃない)」
 そんな風にババ抜きが進んでいった。
 数分後に、決着がついた時には……
「なんだ、やっぱり亜夢が負けたじゃん」
 一抜けしたアキナは余裕の笑顔だった。
「ぐやぢぃ……」
 亜夢は肩を落としていた。
「じゃあ、あたしから寝る場所決めるね。あたし窓際」
 アキナが海側の窓の方の位置を取った。
 さっそくその位置に移動して腰を下ろすと、空を見上げ、
「夜空が綺麗」
 と言った。
「じゃ、次は奈々だね」
「ん〜 ちょっと待って」
 奈々は顎に指を当てて、悩んでいた。
 奈々の次はハツエだったが、美優のそばに行き耳打ちした。
「(美優、ちょっと)」
 廊下に連れ出すと、言った。
「ハツエちゃんようにワザワザ布団しか無いでしょ?」
「えっ、ハツエちゃんのことだったの。あたしはてっきり」
 美優は腰に手を当てた。
 奈々は顎に指を当てたまま言った。
「亜夢のことよ」
「だって今ハツエって」
「ハツエちゃんは誰かと一緒に寝るだけだから、後は私とあなたのポジション次第で亜夢の隣をとれるかどうか、決まる、という事が言いたいの」
「なるほど」
「例えば、私がアキナの一つ飛ばして横をとったら、あなたはどうやっても亜夢の横にはなれないわよ」
「……その通りね。奈々は何がお望みなの?」
 今度は両手を後ろに回し、一歩、一歩、ゆっくり歩き始めた。
「ハツエちゃんのこと。ハツエちゃんと美優が一緒に寝よう、と言ってくれるなら、私はアキナの隣を選ぶわ。ただし、美優が反対端を選ばなかった場合は、場所を変わってもらうから」
「……」
 美優が考えあぐねていると、奈々は手を後ろで合わせたまま、くるっと回って戻ってくる。
「どお?」
「ハツエちゃんがそんなに簡単に私の言うことに従うかしら?」
「気持ちや心はお年寄りでも、体が子供だもの。抱きしめればイチコロよ。それに、食事の時の様子を見る限り、美優になついてた感じだし」