「もうおやめなさい。食べすぎは体によくないのよ」
「わいひょうふでふ。いふももっとたへてます」
「本当にお腹壊すわよ」
 そう言って、冴島さんは俺に右手をかざした。
「?」
 その手のせいなのか俺は急に食べてはイケナイ、という気持ちになり、給仕に肉を切るのを止めさせた。
 給仕の人は手を止め、俺に尋ねる。
「もうよろしいので」
「はい」
 いや、食べれるけれど…… 俺は心とは違う答えを言っていた。
「下げてください」
 えっ、いや、あの、まだお腹空いてるんだけど……
 会釈をすると、給仕が肉の塊をさげてしまった。
「……」
 納得行かなかったが、とにかく皿に盛った分を平らげる。
 最後にデザートをもらって、食事を終えると、冴島さんがチェックをしてレストランを出た。
「すこしだけお話をしましょう」
「はい」
 レストランのフロアから、さらにエレベータで上の階に行くと、赤い絨毯敷きの廊下を歩いた。
 老人が立ち止まると、扉を開けた。
 冴島さんがすっと入っていく。俺は入って良いものか戸惑った。
「どうぞ」
「失礼します」
 通された部屋は、テレビや映画でしか見たことのないような豪華な部屋だった。
 調度品が一つ一つ高いとかは分からない。俺のような不慣れな人間でも、天井の高さや広さが圧倒的なことはわかった。つまり、すごく高い部屋なのだ。 
「すごいですね。こんな部屋に泊まるといくらかかるんですか?」
「百万ぐらいね」
 冴島さんは椅子に座ると、俺に向かいに座るように促した。
「さっきはごめんなさいね」
「?」
「もうお肉を少し食べたかったでしょうけど、あのお肉の値段知ってる? 奢るって言った以上、こっちが払うんだけど、あれ以上食べられたらこっちもお金が足らなくなるのよ」
「えっ、あれは冴島さんが何かしたんですか? 少し変な感じがしていたんです。食べたいのに、『下げてください』って言っちゃったから」
「あれは霊の力を借りて、あなたにそう言わせたのよ。あなたにバイトとして頼むお仕事にも関係するわ」
「霊が、ですか?」
「あの部屋に入って契約書にサインする。そんなことができたのがあなた一人だった、ということよ。あのバイト募集のカラクリを教えてあげる」
「カラクリ?」
「まず、受け付けはこちら、が読めないと話にならなかった。何も分からず並んでいた連中は、素養がないことになるわね」
「はあ」
「次にわかったとして、あの部屋の扉を開けれる種類の霊力でなければならない。あの部屋の扉は、私は開けないの。タイプというか、相性のせいで」
「あのおじいさんは入ってましたよ?」
「そうね。松岡もあなたと同じタイプよ」
「あのおじいさん松岡さんっていうんですか。なら、松岡さんにやってもらえば……」
「あなたがどこまで知っているか分からないけど、世の中の一部の人間はこんな霊の力を借りて能力を高めている人たちがいるのよ。プロ野球の王田仁、メジャーの一翁、プレミアリーグのウェイン・アーニー、マイクロフトのCEOだったゲイツとか、中国の主席とかもそう」