「(えっと……)」
 亜夢が困っていると、パリン、とガラスの割れる音がした。
『今の何?』
 アキナから|思念波(テレパシー)が届く。
 亜夢は一階、二階と見て回る。
『わからない。こっちは割れている様子はない。アキナ、そっちも割れてないの?』
『見ている限りないわ』
 亜夢は少し回りこんで、家の扉を面で見れる位置を探す。
 まったく家に変わった様子はない。
 亜夢は仕方なく元いた場所に戻ると、気付いた。
「(美優? 美優、どこ?)」
 隠れていたはずの木の裏から、美優の姿が消えている。
 反対面を見てくれたのだろう、と思い亜夢は家の確認をしながら、美優がいたほうの側を探す。
 けれど、美優の姿も、家の異変も見つけられない。
「(まさか)」
 亜夢は意識を広げる。
「(この前のあの感じ。さがせるはず)」
 目を閉じると、美優のあの感じに触れることが出来た。
『美優? 今どこ?』
 何も見えない。けれどここが美優の世界であることは間違いない。
 右左、上下も分からない状況の中を、亜夢は走り回る。
『美優、さっきのこと、思い出して』
 すると、その何もない世界に黒い、霧のように粒子が流れ始めた。
 川のように、どこかを目指して流れているようだった。亜夢はそれを追った。
 すると、その黒い粒子が渦を巻いて溜まり始めた。
『!』
 流れ込むのが終わると、その溜まりが変形して、人間のような姿を作った。
『あなたが亜夢?』
 亜夢は一瞬にしてその黒い姿が誰なのかを思い出した。
 美優の|精神制御(マインドコントロール)をしていた人物だ。
『美優をどうする気?』
『この子の能力が必要なので、また借りにきただけだ』
『そうはさせない』
 亜夢は黒い姿が立っている『影』に気付いた。
 そして、自分の足元を確認する。亜夢のそこには影はない。つまり、あの黒い粒子がつくる人の姿と、影は無関係。影は、美優自身が隠れている場所だ。
 黒い姿の人物が、亜夢に見つけられないようにカムフラージュするともに、美優が出てこないように蓋をしているのだ。
 亜夢は強く風を吹かせ、黒い人の姿を吹き飛ばそうと考える。しかし、何も動かない。ここが現実の空間でないことを思い出す。
『力ずくでやるしか……』
 駆け寄って、両手で突き飛ばそうとするが、黒い人影は再び霧のように分散してしまう。
『影は?』
 黒い人影に収束すると、お盆のように黒い影を持っている。
『ここだよ。どうやら、君、ハツエと接触したようね』
『……』
『ここにいることがわかっても大して問題ではない。この状態なら私はこの|娘(こ)をコントロールできるからな』
 亜夢はこの空間がちぎれかかっているのを感じた。
『美優をどうする気?』
『そんな重要なことをいうワケないだろう? おっと。そろそろかな……』
 世界が端からブロック状に分割されて、何も見えなくなった。
「亜夢、しっかりしろ!」
「アキナ? 美優が、美優が連れ去られた」
 亜夢が目を開けた先にはアキナと奈々が立っていた。