「ムカつく! 絶対にぶち抜く」
 アキナと亜夢は顔を見合わせる。
 アキナは驚いたような表情。亜夢は困ったことになった、という顔をしている。
「えっ? ちょっと、清川くん?」
「うっさい中谷。負けっぱなしでは気が済まないんだよ!」
 次の信号は二車線あり、バイク女は先に止まってい待っていた。
 清川の運転のパトカーが近づくとバイク女が振り返って、引き込むように大きく手を振った。
「なめんな!」
 亜夢は、背中をシートにぴったりつけ、シートベルトをぎゅっとつかんだ。
 アキナが恐る恐る運転席の清川の肩を叩いて言う。
「き、清川さん、あの、パトカーが公道でレースをしちゃまずいんじゃ?」
「そうだよ清川くん、相手を先に行かせて、横道を進もう」
 そう言う中谷も足をつっぱって、背中をシートにつけて顎を引いていた。
「う・る・さ・い。黙っとけ」
 切れた清川は、二人を振り返りもしなかった。
 ただ信号をじっと見つめて、発進のタイミングをうかがっている。
 信号が変わると、ものすごいタイヤの音をさせて発進する。バイクは何か操作ミスしたのか、加速が鈍い。
 物凄い風が、車内に入り込んでくる。特にアキナのあたりに風がまいている。
 顔に風が吹き付け、苦しく感じたのか、アキナが言う。
「き、清川さん、振り切ったから…… もうスピード落として」
「そうだぞ、清川くん、我々は警察なんだから法定速度をまもらないと」
「ふぅーふぅーふぅー」
 清川は肩で息をしている。
 聞こえていないのか、スピードは一切落ちていない。
「清川くん!」
「清川さん!」
「は、はい!」
 清川はそう言うと、急に正気を取り戻したようにブレーキを踏んでスピードを落とす。
 スピードが落ちると亜夢は後ろを見た。バイク女はついてきていない。確かにすごいスピードだしてはいたが、こんな短時間で振り切れるほどではないはずだ。亜夢は左右上下を注意して確認したが、バイクは見当たらなかった。
「振り切ったようね」
「ああ。事故が起こらず本当によかった」
 その後もしばらく走り続けた後、道路わきのコンビニに車を止めた。
「乱橋さんも森さんもちょっとコンビに入らない?」
「はい」
「亜夢がいくなら、私もいく」
 中谷は車の中に残って、三人はコンビニに入る。
 しばらくして、三人がコンビニ内をウロウロしていると、野太いエンジン音が聞こえた。
「亜夢、さっきのバイク!」
「アキナ、また競争にならないように、清川さんを店の奥に連れてって」
「亜夢はどうするの?」
「なんで私達をつけてくるのか聞いてくる」
「えっ?」
「アキナ、清川さんをお願いね」
 アキナは首を縦に振ると、清川の腕をとっておくへ行った。
 亜夢はコンビニから出てバイクの女に近づく。
 女は黒いフェイスマスク、サングラスに、黒の半帽をかぶっていた。
「制服じゃないんだ?」
 バイクの女から口を開いた。
「ヒカジョの制服着ないのかい? あんたプライドないのかい?」
 亜夢はコンビニの方を振り返って、そのガラスに映る自分の姿を見た。都心でヒカジョの制服をみて、非科学的潜在力があることがバレてしまった経験から、亜夢もアキナも私服を着ていたのだ。
「ほら、余裕ぶっこいてんじゃないよ。こっちを向きな。ほら!」
 黒い半帽をバイクのミラーに引っかけ、亜夢に突進してきた。