拳を引いてから、亜夢に殴りかかる。
 ドンっと大きな音がした。
 バイクの女の拳を手のひらで受けた亜夢は、コンビニの駐車場の端まで飛ばされた。
「どういうこと?」
「そういうこと」
 軽く地面をけって跳躍する。高圧線の架線あたりまで軽く上昇すると、亜夢をめがけて降りてくる。
「いくらなんでも高く上がり過ぎだよ。簡単に避けられ……」
 バイクの女は亜夢の言葉を聞いてもそのまままっすぐ降りてくる。
 亜夢は視野の隅に入ったものを確かめた。
「まさか」
 亜夢はもう一度さっきの場所に戻って腰を落とし、腕を十字に合わせた。
 バンっと、派手に大きな音がした。
 バイクの女と、亜夢が作り出した、空気の鉾と盾がぶつかり合ったのだ。
 亜夢は自分の腕が顔にあたり、頬が赤くなっている。
「!」
 亜夢は慌てて後ろを振り返る。
 見上げるおさげ髪の女の子。『くぅ~ん』となく子犬。
「おねぇちゃん、今の音、何?」
「大丈夫だよ。だから、しばらくそこを動かないでね」
 亜夢はバイクの女の方を睨みつける。
「卑怯者」
「……」
 亜夢はバイク女の方へ進んでいく。なるべく女の子と子犬から離れたいからだ。
 バイク女は進み出てくる亜夢に拳をぶつける。
 右、左、右、左……
 繰り出す拳が亜夢と重なるたび、 さっきの蹴りと同じ空気の炸裂音がする。
 連続攻撃に耐え切れず、亜夢は一歩、また一歩、と後ろに下がってしまう。蹴りの着地で何歩か前に出た分が、どんどん削られてしまう。
「なんでこんにパワーが上がったの……」
 独り言を言うと、コンビニから出てきたアキナが亜夢を見つけた。
「なにしてるの!」
 バイク女はアキナを振り返った。
 そして手の平をかざすように両腕を伸ばしてから、横に振った。
「えっ?」
 アキナは、バイク女が振った方向に飛ばされた。駐車していた車に当たる寸前、アキナは大きく上に跳ね上がった。
 その間に、亜夢がバイク女の背後に近づいていた。
「!」
 亜夢の拳がバイク女の背中にぶつかると思った瞬間、女もアキナと同じように跳ね上がった。
 亜夢は当たったと思った拳が空を切り、前によろけた。
 そこを上からバイク女がとびかかる。亜夢の首を取って締めに掛かる。
「ぐはっ!」
 腕を引っ張って抵抗する亜夢。
「何っ?」
 跳ね上がっていたアキナが、バイク女の背後に降りてきた。
「ぐはっ……」
 アキナはバイク女の首を腕で絞りはじめる。
「亜夢を放せ……」
 その時、バン、と銃声がした。
 アキナが一瞬ひるんだすきに、バイク女はアキナに肘打ちをいれる。
 もつれていた三人が、一瞬でバラバラになると、女はすばやくバイクに戻ってエンジンをかける。
 咳をしながら、亜夢とアキナが立ち上がる。
 フェイスマスクを少しずらし、女は言う。
「次は必ず|殺(や)ってやる」
 フェイスマスクを戻すと、爆音を立ててバイクは大通りに滑り出す。