「これで終わりかしら?」
 そんな挑発するようなことを言ったら……
 思った通り、斎藤さんは怒り狂ったような表情で、冴島さんに向かってきた。
「至近距離からやればかわせねぇだろうぜ!」
 冴島さんは下がる様子がない。
「冴島さん、逃げて」
 斎藤さんが、全力で押し込むように両手を冴島さんに向けた。
 もう、直接手が触れるぐらいの距離だった。
 冴島さんは、弾かれたように宙を高く飛んだ。体をピン、と伸ばしていて、まるで木の棒を空へ投げたようだった。
「冴島さん!!」
 やられた。この床に落ち、ガラスの破片で酷いことになってしまう。
 俺は必死に体を動かした。
「今、俺が受け止めますから!」
 なんとか体を動かして、落下地点にたどり着いた。
「かかったわね」
 体をひねりながら姿勢を整えた冴島さんが、斎藤さんの方へ手をかざす。
「弾けろ!」
 そう言うと、斎藤さんの周りのシャボン玉のようなものが一斉に弾けた。
 さっき聞いたような爆裂音が続けて巻き起こり、斎藤さんの体が激しく揺さぶられる。
 落ちてくる冴島さんを抱きとめようとした瞬間、冴島さんに頭を押さえられた。
「私は、ちゃんと着地出来るわよ」
 冴島さんの体重がかかって頭が、ガクンと下がった。
 斎藤さんの周りのシャボン玉が、ドンドンドンドンと爆発して…… シャボン玉がなくなり、爆裂音が止まった。
 斎藤さんは静かに膝をつき、そしてうつ伏せに倒れた。
 頭を押さえつけられていた手を払い、俺は斎藤さんのところへ走った。
「……」
「斎藤さん、大丈夫ですか!」
 俺は倒れている斎藤さんを抱きかかえる。
「うおっ!」
 顔には青い色で塗られた模様が浮かんでいた。怒り、悲しみ、映像が早送りされるように表情が何度もゆがむ。感情に合わせて青い色の模様も変わってっていく。
「斎藤さん!」
「影山くん、口を閉じて!」
 冴島さんの言葉で、俺は「大丈夫ですか」という言葉が出てこなかった。その代わり、斎藤さんの口が大きく開き、煙というにはあまりにゆっくりした粒子状の物体がゆっくりと吐き出された。
「んんんんん!」
 俺は声に出ない声を出しながら、冴島さんを振り返る。
「それがビルの工事を遅らせていた霊よ」
 これをどうすればいいんだろう。引っ張って取り出せばいいのか?
「引っ張ったりしないでよ。今、その人から出て行ってもらうから」
 冴島さんは手を合わせ、指を組み合わせながら何か言っている。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前!」
 斎藤さんの口から流れ出ている粒子状の浮遊する物体が、さぁーっと流れ始めた。
「んんんん!」
「?」
 その粒子が流れていく先は、プレハブの中だった。見ると、プレハブの中でマスクをした掃除のおばさんが掃除機を持って立っていた。
「あっ、あんなところから吸い込めるんですね?」
 俺の言うことなど無視して、冴島さんはプレハブの方へ走っていた。