清川がバイクのナンバーを確認してから、二人のそばにやってくる。
「大丈夫だった?」
「ありがとうございます」
「なんなのあいつ!」
 アキナは腰に手を当てて怒っている。
「わからないけど、この前の事件の時にもいた」
 亜夢が清川の方を向く。視線を向けられた清川はバツが悪そうに視線をそらし、逃げて行った方向を見つめる。
「まだ、あの|娘(こ)が誰だっていうのが調べがついていないのよね。誰なのか、が分からないと、令状とれないから捕まえる方法がなくて」
「さっきだった捕まえていいんでしょ? 例えばスピード違反とかでも」
「たとえば、さっきの状況なら捕まえれば、傷害未遂の現行犯だから。捕まえて話聞くぐらいはできる」
「亜夢。そしたら今度はやりあうんじゃなくて、捕まえるようにしないと」
「……そうだね」
 一人で抑え込むことが出来るだろうか。前回会った時よりパワーアップしている。亜夢はバイク女を捕まえるのは簡単ではない、と思った。
 パワーアップしているのに、この強い干渉波の影響を受けないのだろうか…… 亜夢はパトカーに戻った。
「中谷さん、このキャンセラーを作れるとしたら、中谷さん以外に誰がいるの?」
「えっ? 急にどうしたんだい?」
 何かノートパソコンに書き込んでいる途中のようだった。
「この前の新製品発表会があったホテルにはキャンセラーが付けられていた。今さっき、バイク女は強力な非科学的潜在力を使えたけど、この干渉波の影響がないみたいだった。力が強くなれば、干渉波の影響も強くなるはずなのに」
 中谷はノートパソコンを閉じた。
「理論上は、ネットで調べれば誰でもつくれるよ。けど、誰にでも部品が手に入るか、というとそうではない。基本的には干渉波を作っているメーカーならキャンセラーも作れるよ。構成している部品は同じだからね」
「そのメーカーを調査できませんか? 美優を連れ去った連中はきっとキャンセラーをどこかに作らせている。そこと取引している人物、団体をあたれば…… 非科学的潜在力を使う集団にたどりつけるはずです」
 中谷はまたノートパソコンを開いた。
 そして画面に向き直り、キーボードで何か打ち込みを始めた。
「亜夢ちゃん。残念だけど、それは調べてみたんだ。パーツの行先は全部極秘。基本的には政府機関に納品され、そこから半完成品で戻ってくる。それを政府機関で組み立て直しているようなんだ」
「じゃあ、あの連中も政府機関の手先……」
 中谷の目はノートパソコンの方を向いていて、顔が少しだけ亜夢の方に向いた。
「政府機関の手先のわけないだろう。そうすると政府機関の中に自らの国の安定を脅かす集団と関係していることになる。自分で自分の首を絞めるようなものさ。何のメリットもない」
「本当でしょうか? そうだ。この前の製品発表会をする企業。あそこにこの干渉波のパーツが流れていたりしませんか? あそこなら小型のものから大掛かりなものまでつくれそうじゃないですか」
 中谷はノートパソコンを見つめながら首を振った。
「基本的には納品先は極秘。それも納品された同数が政府機関に戻ってくることになっている」
「帳簿をごまかしているのかも」
「……疑いたいのはわかるが、今はそれ以上深追いできない」
 亜夢が歯を食いしばり、口元が歪んだ。
 アキナも清川もパトカーに戻ってくる。
「乱橋さん、早く車に乗って。森さんも」
「……」
「どうしたんですか?」
 アキナが尋ねると、清川が言った。
「連絡が来たの。AKKと名乗る非科学的潜在力の集団が、ドームスタジアムを占拠したって。中にいる2万人近い人が人質になったのよ」
「えっ!」
 全員が乗り込むと、清川が車を走らせる。
 アキナが質問する。
「|AKK(エーケーケー)ってなに?」