俺としては食事をさせてくれるだけでうれしい。
 無言でなんどもうなずいた。
「松岡。食事が出来る最初のサービスエリアに入って」
「はい。お嬢様。しかし、三十分以上はかかりますが……」
 松岡さんは俺を直接みて言った。
「どうなの?」
「だ、大丈夫です」
「だそうよ」
「わかりました」
 松岡さんは白い手袋をシフトレバーにかけ、クンっと一つ下げる。すると高速道路の入り口を静かに、かつ力強く加速した。そのままスムーズに合流し、すぐさま追い越し車線へ。すべるような車の動き、静かな車内。
 後ろから、肩を突っつかれて振り向くと、冴島さんが、袋を差し出してきた。
「ひとつあげるわ」
「ひとつ、ですか」
 袋には古臭い漢字が書かれていて、手を出すのがためらわれた。
「ひとつよ。ひとつじゃ不満なの?」
「いえ。これ、俺みたいなヤツが、いただいていいものなんですか? 高いんでしょう?」
「……これはさっきコンビニで松岡が買ってきた飴よ」
 な、なんだよ。ひとつ、ってもったいぶるから……
「いただきます」
 もらった飴をなめているうち、左手にビール工場や競馬場が通り過ぎて行った。
 俺は肝心なことを聞いていなかった。
「そ、そうだ。これから、どこに行くんです?」
「リニア新幹線の建築現場よ」
 また建築現場に入っている警備会社のバイトなのだろうか。もしかすると、山の中で泊まり込みのバイト……
「どうしたの?」
「け、建築現場はもう……」
 俺は頭を抱えた。
「何言ってるの。そこは私達が見に行く場所。影山くんの仕事はトンネルの調査よ」
 ルームミラーをチラ見すると、冴島さんの口元が映っていた。
「トンネルの調査? ですか」
「幽霊トンネルってやつね。ちょっとやっかいで、通行者を脅かすんじゃなくて、通さないらしいのよ。入り口を見えなくしたり、空間をゆがめて入ってきた方に出ていくように仕向けたり。そのトンネルはリニアの工事に重要な道らしくて……」
「そ、それでリニアの建築現場にいくんですね」
「違うわ。単なる私の興味よ。せっかく近くまで行くんだから建築現場見てみようって」
 車は、最初のサービスエリアに向かって、ウインカーを出した。
 サービスエリアはかなり混んでいた。
 冴島さんは車に残り、俺は松岡さんにバイトの前金をもらって、フードコートの自販機の列に並んだ。エリアのあちこちに『地鶏親子のオムライス』と書かれていて、それを食べてみよう、と思っていた。俺が並んでいると、松岡さんがやってきて、フードコート内のキッチンに入っていき、しばらくすると大きな箱を受け取って、車の方へ戻っていく。
 ようやく順番が着た時には、『地鶏親子のオムライス』は売り切れになっていた。しかたなく、俺は普通のかつ丼のチケットを買い、出来上がるのを待った。
 トレイを受けとって、席でかつ丼を食べていると、再び松岡さんがフードコートのキッチンに入っていって、また箱をもって出て行った。
 食べ終わってお茶をのみ、ようやくとお腹が落ち着くとフードコードを出た。
 車に近づくと、松岡さんがすこし離れたところで、ハンバーガーを食べていた。俺は松岡さんに声をかけた。