アキナが返す。
「けど、協力するふりして、テロリストを殺さないようにすることもできたんじゃないかな」
 亜夢は立ち止まって振り返る。
 アキナも、亜夢が誰を見ているかに気付いて、振り返る。
 視線の先の男は首を振る。
「アキナ、その場合は私達もターゲットにするって、そう言ってたじゃない」
「……」
 再び階下方向に向き直り、亜夢はゆっくりと階段を下り始めた。
「あの人は、非科学的潜在力を持つ者としての共感をすてろ、って言ってた」
「そうだったね」
「同じ人としての共感はないんですか?」
 亜夢はそう言って立ち止まり、またしんがりの男の顔を見た。
「ない。テロリストは人ではない」
 亜夢は男の冷静な表情が気に入らなかった。
「……が、君たちが協力しないと、テロリストにも、我々にも、そして人質にもだ。余計な犠牲者が増えるのは間違いない。なぜ協力を拒否した? 短時間で制圧するためのベストな選択なのに」
 亜夢は男を睨みつけていたが、男の言葉を考えているうちに視線をそらした。
「……誰も傷つけたくないのよ」
 ゆっくりと階段を下りていく。
 それを最後に誰も話さなくなり、しばらく靴音だけが響いた。
 階段を下りきると、少し広がっているホールに出て、最初に通ったオートドアを出た。
 亜夢達に気付いて、中谷と清川が車から出てくる。
「どうしたの? もう終わったの?」
 清川に呼びかけられると、亜夢とアキナは小走りで近づいた。
「いえ…… そういうわけでは」
 男はオートドア近くで立ち止まった。
 中谷が険しい顔をして亜夢の胸倉をつかんだ。
「な、なにをするんですか?」
「じゃあ、なぜ君たちは帰ってきたんだ。ドームの中の人質をすくっていないのに!」
「……テロリストを殺す気で行動しろと。そうしなければ私やアキナも殺すと言われたから。そんなことできない、と思ったし、それに、私、誘拐された美優を探す為ににきたんだよ」
 中谷は急に手をあげ、亜夢の頬をはたいた。
「痛い」
「馬鹿! すぐもどるんだ。作戦に参加しろ」
「だから私達、人殺しの為に学園から連れてこられたんじゃ……」
 中谷は亜夢を突き飛ばした。
 足がもつれ、よろよろと後ろにさがると、しりもちをついてしまう。
「何をするんですか」
「君たちは俺と清川がしたくてもできない能力を持っているんだ。持っている者として、責任を果たす義務がある」
「……欲しくてこの|非科学的潜在力(ちから)を持っているわけじゃない」
「俺らだってそうだ!」
 中谷は亜夢たちに背を向けた。
 鼻をするるような音が聞こえる。
 清川が代わりに進み出て、オートドア付近に立っている男の方を指さす。
「早くいきなさい。人質を救うの」
 亜夢は立ち上がって清川にくってかかる。
「私達は誰も殺したく」
「いいかげんにして!」
 中谷とは反対側の頬を、パチン、と叩かれた。
「亜夢。テロリストに対抗できて、ドームの人質を救えるのはあなたたちだけなのよ」
 亜夢は両目から涙があふれていた。
 アキナは口を真一文字にむすんで、清川にうなずいた。
「行こう。亜夢」
 エレベータ近くで立っていた男は清川にうなずいて、泣き叫ぶ亜夢とアキナを先導し、ホールへ入っていく。