「中谷さん。中谷さんは正しいことを言ったんです。泣かないでください」
「清川くん……」
 中谷は清川の肩に手をかけた。
「ありがとう」
 清川は笑った。



 パイプスペースでは、亜夢達非科学的潜在力女子がいない想定で作戦を話し合っているところだった。
 男に促されて、亜夢とアキナが入ると、中の連中は話すのを止め、一斉に二人の方を見つめた。
 亜夢はふてくされたような顔をして、床に目線を落としている。
「私達も作戦に協力します。協力させてください。お願いします」
「亜夢、その言い方……」
 再び、この集団のリーダーが亜夢のところにやってきて、言った。
「本当にやれるのか。半端な気持ちだと」
「やります」
「私もです」
 亜夢とアキナはほぼ同時に答えた。
「よし」
 リーダーが声をかけると、すぐに男たちが行動した。アキナと亜夢はそれぞれ別々の班に分けられ、おのおの作戦を説明された。
 短い説明ではあったが、皆首を縦に振った。
 男たちは銃を持ち、装備を確認した。
 亜夢とアキナも、チョッキを着けるように言われた。
「それは外して」
 確かに、キャンセラーを外すと、非科学的潜在力の外へ広がるような力が使えない。
 二人は言われた通り、干渉波キャンセラーを外す。
「えっ?」
 亜夢とアキナは顔を見合わせる。
「亜夢、ここ、都心じゃないの?」
「ここ干渉波がない」
「テロリストが非科学的潜在力をつかうのだから、そういう状況でも不思議はないな」
「……」
 亜夢は一瞬、言うべきか、言わないべきか悩んだ。そしてそのまま考えた事を口にした。
「テロリストが何故干渉波をキャンセル出来るんですか? 政府に内通するものがいるんじゃないですか?」
「……それは今議論する内容ではない」
「しかし」
「人質の解放が先だ」
 亜夢はうなずいた。アキナも目で合図した。
「いくぞ」
 亜夢の班は、一度駐車場あたりまで下がってから、作業用通路を使ってテロリストが指令室として使っているだろうテレビ中継室の真下へと向かった。アキナの班はグランドの下を通って、人質を逃がすための大型搬入口の確保をすることになった。
 腰をかがめながら素早く通路を通りテレビ中継室の真下に到着する。
 亜夢は男たちから携帯端末でテロリストの画像を見せられる。
「このドームを占拠した連中だ」
 最初の人物は、車椅子に乗っていた。
「宮下加奈」
「知っているのか。その通りだ。宮下は車椅子に乗っているが、油断できん。車椅子ごと宙に浮いたりする」
 次の写真の女性の写真は、目元に見覚えがあった。
「よくアメリカンバイクに乗って行動している女だ。最近分かったんだが|七瀬(ななせ)|美月(みつき)という名前だ。二年ほど前まで、都内の高校に通っていたらしい。その他の経歴はまだわからない」
 いつもはフェイスマスクをしていて、顔全体の輪郭や口元をみるのはじめてだった。
 亜夢は七瀬の写真を指さして言った。
「さっきまで私達の乗ったパトカーをつけていました」
「そうか。ならば、君たちと同時にドームに戻ってきているかもしれないな。残念ながら、顔がわれているのはこの二人だ」
 亜夢は拍子抜けした。自分が把握している情報を上回っていないからだ。
「以前、署長の娘が|精神制御(マインドコントロール)されていたのは知っているな。我々の予想では、ああいう人物がまだたくさんいると予想している」