「……」
 腕を組んでリーダーが何か考えている。
「一瞬で済むこと。何か仕掛けて行ったのか」
「たぶん」
 男たちが急にあわただしく動き始め、装置の下や、裏を探し始めた。
「爆弾のようなものではないと思いますけど」
「……ここに二人残して、後はスタジアムの状況を確認するため、上のフロアにあがるぞ」
 リーダーが言うと一人はもくもくと部屋を探しつづけ、一人は扉の外に立って銃を構えた。
 亜夢はリーダーについて、緊急用の階段を使ってスタジアムの端、一番高い場所へのぼっていく。
「警備室は無事だったんですか?」
「無事だ。警備室で見れる監視カメラの映像も、実はテレビ中継室からみることが出来るらしい。だからそこを押さえたんだと推測したんだが」
 ドームスタジアムの観客を人質にしているからには、どこからか監視しているはずだ。そうしないとどこからか逃げられてしまう。
 客席に出る箇所から、少しだけスコープを出して、スタジアムの様子を見た。亜夢もその映像を見た。
 どうやら人質となった人たちは観客席からフィールド部分に下ろされ、集められているようだった。
「フィールドに集めていても、どこからかは逃げられてしまいますよね。どうやって統制しているんでしょう」
 亜夢がそう言うのも無理はなかった。
 誰か高い位置に立って声をかけているわけでもないし、集団に先頭となるような人もいない。中心に立っている人間がいるわけでもない。ヒツジはいれど、犬も羊飼いも存在しないのだ。それなのに集団が解散しない、というのはおかしい。どこからか監視・統制されているはずだ。
「……」
「外から追い立てているのでないとしたら、内側でしょうか?」
「人質の中に入っているということか。だが、監視の及ばない外側の人間はどうする」
「そう…… ですよね」
 亜夢はスコープから送られてくる映像をじっと見つめた。
 集団の外側がばらけず、まるでおしくらまんじゅうをするかのように、集団をまとめている。外側の人にもなにか統制がかかっているのだ。非科学的潜在力をつかったとしてもこれを長い時間やっていれば疲れてしまう。
「テロの要求はどういうものなんですか?」
「国際刑務所に収容中の非科学的潜在力をもった仲間の解放。それと非科学的潜在力に対する差別行為を即刻中止すること。やつらは具体的に干渉波の停止、と言っている。公には非科学的潜在力を持った人間にだけ働く干渉波があるなんて事実は知らせていないからな。それを差別の中止、と言い換えている」
「干渉波の件だけなら、私もテロ側に付きたいくらいです」
 リーダーはものすごい形相で睨んだ。その様子から亜夢は拳が飛んでくるような錯覚を覚えた。
「……」
「すみません」
 状況を変えて行かないと事態が悪くなる、と思い亜夢は提案した。
「私がグランドにおりて、人質の様子をみてきます」
「状況が分かってないんだぞ」
「けど、こうやって見ているだけでは分からないじゃないですか」
 亜夢はリーダーの頭に|思念波(テレパシー)で話しかけた。
『グランドの状況は、これで伝えることができます』
「なに?」
「テレパシーです。とりあえず、リーダーには送れますから。このドーム内は干渉波がないので、テレパシーは届きますよ」
 リーダーは恐れているのか、驚いているのかはわからなかった。直接脳に話しかけられる感覚は、されたものでなければたとえようがない。
「俺を特定した? というのか」
「しばらく皆さんと行動していて、思念波で見える世界と比較して、丸なのか四角なのか三角なのかって。それでリーダーがどう見えるのか覚えただけです」
「間違えて他人に送ったりしないのか?」
「干渉波がなければ大丈夫ですよ」
 リーダーは黙って何か考えていた。