目の前がみるみる白くなっていくのは覚えているが、立ち上がったのは覚えていない。俺はなんで立ち上がったんだ?
「全部は覚えていないです」
「まあ、病院についたらそこらへんを正直に話しなさい。大丈夫。急患として診てもらうからね」
 病院につくと、いろいろとここにくるまでの状況を聞かれた。
 何を食べたのか、とか、具合が悪かったのか、とか。どうして倒れたのか、とか、そういうことを尋ねられた。
 一つ一つ答え、体を触られ、MRIを通された。
 それから点滴を打たれ、病室に入れられた。
「えっと……」
「栄養失調からくる貧血だね。ちゃんと食べるもの食べなよ」
 そう言えば、ここ最近はキャベツしか食べていなったっけ。
「すみません。俺、こんな個室の代金払えないので、別の……」
「大丈夫。お金は車を運転していた方から預かっている。それにそもそも大部屋は空いてない」
「そうですか」
「焦ってもしかたないんだから。寝てなさい」
 医者はそう言うと出て行った。
 入れ替わるように看護師が入ってきて、点滴の速度をすこし調整し、何か具合がわるくなったらこれで呼び出せと言った。
「あと、トイレはここにありますから」
「……すげぇ」
「個室ですから。失礼します」
 看護師が部屋を出ていくと、ほどなく退屈のせいか俺は寝ていた。
 ノックの音で目が覚めた時、あたりは暗くなっていた。
「入るわよ」
 そう言うと冴島さんが入ってきた。
 俺は慌てて上体を起こした。
「わざわざお見舞いに来てくれるなんて」
 個室に入院させてくれたことに加え、御見舞に本人が来てくれることに俺は感激していた。
「いいのよ。横になってなさい。早く回復してもらわないと、次のバイトが間に合わないわ」
 一瞬、俺のことを気遣ってくれた、と思った自分が甘かった。
「……」
「全力で回復に協力するから。次の仕事は重要なのよ」
「……そんなことだろうと思いました」
「どうしたの? 説明するわよ」
「はい、なんでしょう」
 俺はスマフォの録音機能を使った。
「今度はデータセンターでのサーバー監視のバイトよ。監視っていうのは本当に、現場でLEDがついているか、とか、バックアップ用のテープが終わったら交換するとか、故障したHDDの交換とか。物理的な監視ね」
 ハードなバイトだな、と俺は思った。  
「バイトのなり手がいないとか、サーバーが動かないとかですか?」
「どうもそこのデータセンターにホストを持っている企業の業績が悪いらしくてね。データセンター自体が呪われているんじゃないかって疑いがかかっているらしいの」
 俺はデータセンターが呪われている、なんて考える経営者のもとでは働きたくないな、と感じた。
「誰がそんな疑いをかけたんですか?」
 冴島さんは持ってきたリンゴの皮むきを始めていた。
「私よ私。除霊事務所だけど、経営相談もよくあるのね。複数の経営相談を受けているとき、ふと調べたら同じデータセンターだったっていうわけ」
 俺の関心は経営相談の話ではなく、冴島さんの剥いたリンゴが俺の口に入るのかどうか、ということに向いていた。