15、6列あるサーバーラックの谷間を3フロア分ほど歩いていると、何時間経過したのかがわからなくなってきた。書き込んできたレポートを見ると、この列のサーバーのチェックをすれば最後だ。サーバーを冷やすために部屋は冷気が流れていた。人間からすると寒いのだが、サーバー様には適温なのだろう。いや、もっと寒くてもいいくらいか。
 やっと俺はチェックを終えて監視室に戻ってきた。
「おつかれ」
 とバイト先の先輩が言った。
「無事終わりました」
「じゃあ、そのレポートをエクセル打ちして印刷して報告してくれ」
 一枚に5台のサーバー分の記載がある。ほほ1ラックで1枚使用するから、5掛ける16列、80台の3フロア…… 約240台の様子をこれからエクセル打ちして、印刷したものをファイルに閉じ込んで終わりだ。先輩はただみているだけじゃない。俺の手書きレポートとエクセル打ちした印刷物を比較して、入力ミスがないかチェックするのだ。間違えていれば俺が入力し直しだ。
 入力はかなり古いパソコンを用いて行わねばならず、入力の度にストレスがたまる。
 半分を超えた、と思って、とりあえず保存のボタンを押そうとした時、画面が消えた。同時に監視室の明かりもすべて消えた。赤いランプがクルクルと周り始めて(警察車両とかが付けているあれと似ている)それが部屋の中を照らした。数秒するとオレンジ色の灯りがついた。
「な、なんなんです?」
「停電だ。最近やたら停電が多いんだ。勘弁してほしいな」
「停電、って、マジっすか。さっき調べたサーバーは? こんな停電があったても大丈夫なんですか?」
「サーバーは無事だろう。あっちはこの部屋よりずっと高価な非常電源装置で守られているからな。それにラック毎にUPSもある。それより、俺にとってはお前の入力していたデータの方が重要なんだが」
 先輩は椅子を滑らせてこっちにやってきた。
「あっ…… そうか」
「いつセーブしたんだよ?」
「あっ、いや、今、まさに、する直前……」
 先輩は疲れたようにうつむいた。
「おいおいおいおい。まさか、全部入れ直し?」
 俺は声には出せず、ゆっくりとうなずく。
「勘弁してくれよ。誰がそれチェックすると思ってんだよ。またお前が打つのを待ってなきゃいけないのかよ」
「すみません。もっと早くやりますから」
「……早くやるより確実にやろうな。セーブはこまめにするんだ」
「は、はい」
 俺が返事をすると、ガツン、と音がして、いつもの白い蛍光灯の明かりに切り替わった。また、同時赤いサイレンが止まり、黄色いサイレンが回り始めた。
 それを見て、先輩は額に手を当てた。
「うわっ……」
「えっ? このサイレンは何なんですか?」
「全サーバーの再巡回だよ。停電の度合いによってこれが回る。これあ回ったら、もう一周サーバーを回るしかないお前がな」
 俺は口に手を当てた。
 もう一度240台近いサーバーを回るかと思うと、いつ家に帰れるのかと思ってゾッとした。
「ただ、さっきのとは違って、LEDだけ見て記録してくればいい。テープやHDDの取り換えはないから」
「いや、それはいいですけど……」
「交代直前だから、俺たちがやらないといけないんだ。ついてないよ」
 このデータを入力したら、またレポートを持ってサーバー巡りだ。
 まずはクソ反応が遅いパソコンでレポートを入力し終え、印刷をして、先輩のチェックを終えた。
 俺はレポートを持って、最初のサーバー室に入る。
「えっと……」
 サーバーラックの列の端についているカードリーダーに、首にぶら下げた沢山のカードから最初の番号が書かれたカードをみつけて当てる。個々のサーバーラックの取っ手についているLEDが光って、サーバーラックの扉が解錠したことがわかる。俺は急いで該当のサーバーラックの前に行き、ラックを開く。