亜夢にも宮下の|思念波(テレパシー)が感じられた。それがカルマの守護者とかいうテロの首謀者だった。
『お前がマスター?』
 その思念波で見える世界は、黒い霧のようながうごめいていて、ふわりと目だけが見えている。黒い霧がかかっているせいでマスターと呼ばれた人物の背丈も性別も想像がつかない。
 浮いているように見える目が、なんどか瞬きすると亜夢と宮下に言った。
『もう終わりだ!』
 黒い霧のなかで、そう口が動いていたように見えた。
 思念波の世界が見えなくなると、亜夢は車椅子の宮下とともに宙に浮いていた。
「!」
 亜夢は宮下の車椅子から飛び退いて、ドームのフィールドへ落ちていく。着地の寸前に、非科学的潜在力で空気の床をつくりショックを吸収した。
「うわぁぁぁ」
 亜夢が降りてしまったせいで反対に宮下がドームの天井近くまで速度を上げて上昇した。
 屋根にあたる寸前で静止し、今度は亜夢をめがけて落下してくる。
 単純に落ちる勢いだけではない。何かの力が働いている。
『発想の転換が肝心じゃぞ』
 金髪の少女が現れて、亜夢にそう言った。ハツエの非科学的潜在力がまだこの空間にとどまって、亜夢をたすけようとしている。
 亜夢は手を広げ、車椅子ごと宮下を受け止めようとした。
「違う!」
 亜夢は車椅子の落下地点からジャンプした。
 勢いよく落ちてきた車椅子は、ドームスタジアムのフィールドに激突し、破片は飛び散り、飛び散らなかった部分はひしゃげ、歪んだ。
 車椅子がフィールドを転がり終わった。
『なに?』
 驚いたような|思念波(テレパシー)が、亜夢と宮下に届いた。
 二人は抱き合った状態で、宙を舞っていた。ゆるやかな弧を描いて、ゆっくりとフィールドに着地した。
 亜夢は思念波の世界に向かって言う。
『あなたはマスターとか呼ばれていたみたいだけど、もう宮下さんはあなたをマスターと呼ばないわ』
『……』
 亜夢はゆっくりと宮下をフィールドに座らせた。
『私はあなたを許さない』
『ふん…… そんな出来損ない。くれてやる』
 宮下が両手で顔を覆った。
『本当に許さない!』
 思念波世界から黒い霧の景色が消えた。
 亜夢は宮下の肩に手を回した。
「大丈夫宮下さん?」
 宮下は片手を顔から放すと、うなずいた。
「ええ。大丈夫。助けてくれてありがとう……」
 亜夢もうなずいた。
 宮下の周りに縛り付けられ、人質となっていた人々が一斉に正気を取り戻す。
 前後の記憶がつながらないせいか、ブツブツ話しながら、バラバラに動き始めていた。
 亜夢はライトスタンド側のブルペン方向に走り、手を広げて反対側に押し戻すようなしぐさをする。
「みなさん、そこのベンチの奥の通路に隠れてください。まだテロリストはこの中にいます」
 亜夢はそう言って、人質を誘導する。そしてSATのリーダーに向かって|思念波(テレパシー)を送る。
『一部人質を解放しました。三塁側ベンチ裏に逃がしますから、後をお願いします』
 人質だった一人が亜夢に言う。
「君はどうするんだ?」
 首を振って、宮下の方へ促す。
「それよりこの方は車椅子が壊れてしまって、歩けないんです。助けてもらえますか」
「わかった。そこの君、手伝ってくれないか」