アキナ達はドームスタジアムの大型搬入路に到着した。
テロリスト達の姿はなかった。
「おかしい…… ここを利用しないなら、あれだけの大人数の人質をどうするつもりなんだ」
アキナは人質の扱いを想像してゾッとした。
「周囲を調べろ。1分後にもう一度ここに集合だ」
アキナは班の一人と一緒に行動した。
フィールドに通じる大きな通路は全く人がいない。どうぞ使ってくださいと言わんばかりだ。
通路の横にシャッターがあり、その脇の扉を進んだ。
扉はシャッターの内側に通じていて、その通路ももぬけの空だった。大きな通路を使用しない意味。アキナは自然とそんなことを考えていた。全員を殺してしまうつもりなら、大型通路は返って使いにくい。かといって、ここから攻め込まれるわけだから、抑えないといけない場所なのだ。
「!」
大きく手を動かしアキナを先導していた男が合図した。脇の扉から奥に入るようだった。
アキナは男の後をついていく。
入った先は人がすれ違うのがやっと、という幅の通路だった。
こんな狭い通路にする意味があるのだろうか、とアキナは考えた。
「この通路の壁とか、天井とか、なんか慌ててつけられたような」
男は立ち止まって、アキナが指摘した壁や天井を注視した。
「うん。確かに変だ」
周りを見渡してから、無線を使う。
「B-5搬入路脇の通路ですが……」
「あっ!」
そう声を上げると、アキナは床に伏せてしまった。
亜夢はライトスタンド側のブルペンに入っていた人質集団を追跡した。
あれだけの人数だ。宮下がいた集団くらいで分割されていて、その各々にコントロールして先導する超能力者がいるはずだ。一度に戦っては不利だが、宮下の集団だけ別の行動を取ったのに残りの集団は全く変化がないことから、もしかすると一人一人が独自の判断で行動している可能性もある。
亜夢はブルペンへ入るための扉の前に立った。
扉に手を当てて、思念波世界を覗き見る。
周囲の人の気配はない。
ゆっくりと開けて、音を立てないように中にはいる。
野球用の投球練習場があり、周囲のいくつか通路と、それに通じる扉があった。人質たちは、もうここにはいない。どこの通路を通って、どこに向かって行ったのか。
壁に手を当てながら、目で見る世界に注意をしながら、思念波世界を交互に観察して、どこへ向かったのかを探る。ブルペンの周りを半周ほどした時、前方の扉の方から、小さく声が聞こえた。
亜夢は素早くその扉に近づき、手を当てる。
その扉からは何度も開閉した思念波が見える。
ここだ、と亜夢は思った。ここから先に移送車を用意して、人質を運ぶつもりなのだろうか。それとも単に密集させて御しやすくしようとしているのだろうか。
扉を少しだけ開けて、その先を下から覗き見る。人の背中が見えた。さすがにこの通路にあの人数を通そうというのは無理があるのか。亜夢は後ろの人から順に|精神制御(マインドコントロール)を解いて助けてみようと考えた。おそらく超能力者はいくつかの分割はあるにせよ、統括する集団の真ん中あたりにいる。狭い場所にいるなら、全員と同時に戦うことはないだろう。
後ろからそっと近づいて、亜夢は人質の頭に手を当てる。
思念波世界に入り、空っぽな空間の真ん中にあるラジオのような機械を見つけた。
『?』
ラジオは時折ノイズ交じりの音声で言った。
『次、進んで』
亜夢はこれだ、と思った。美優の時は支配者の姿がどうどうと世界に存在していたが、行動だけを制御する時はこんなイメージなのだろうか。亜夢はアンテナ用の金属の棒が突き出たラジオという機械を取り上げ、床に叩きつけた。
壊れるわけではなく、ラジオはブロックノイズで分解されるように掻き消えていく。
境界のない空から、本人がその世界の中心に降りてきた。
『?』
『目が覚めたら、何もしゃべらず、後ろのブルペンを通って、三塁側ベンチの方向へ逃げて』
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