ガシャガシャ、と何度ひねってもビクともしない。近くのゾンビがもう手を伸ばせば届くところに来ていた。
「あっちいけ!」
 俺はまっすぐ足を突き出して動く死体を押し戻すように蹴った。
 動く死体はよろよろと左右に揺れながら後ずさりしていく。もしかしたら、これで何とかなるかも。俺はもう一体にも同じように蹴りをかました。
「うわっ……」
 今度は調子に乗って強く蹴ったせいか、動く死体の腹を蹴り抜いてしまった。抜けなくなった足を、ゆっくりと動く死体の手でつかまえられてしまう。
 ひっくり返りそうになりながら、俺はGLPの竜頭を回していた。
「何か役に立つもの……」
 ただ役に立つのではだめだ。そこに死体がいるのだ。間違ったものを出している時間はない。
「あっ」
 俺は思い出して竜頭をクルクル回して合わせた。そして竜頭を強く押し込んだ。
 GLPから煙のようなガスが吹き出しているように見えた。いやGLPであるからには、これはガスではなく霊気なのだ。霊気を通すと向こう側にいるゾンビ達が歪んで見える。
 歪みが急に収まった時、俺はそこに手を伸ばした。
「来た!」
 確かな手応えがあった。
「いくぜ『鉄龍』」
 俺の手には綺麗な細工が施してある鉄製の杖が握られていた。
 素早く突きを繰り出すと、俺の足を押さえていたゾンビが崩れていった。
 単純に叩いただけの力ではないな、と俺は思った。何か霊力が加わっているのだ。行ける。
 俺は積極的にゾンビを突きに向かった。ゾンビは床にどんどん崩れていき、床を埋め尽くしていった。
 暗い上に崩れたゾンビの体が足に掛かって、歩くことも困難になってきた。
 動く影が減ったな、と思った時、ふと手に持っている『鉄龍』の状況に気付いた。
「まずい……」 
 『鉄龍』が短くなっているのだ。推測だが、霊力をすり減らしてしまったのだ。サーバールームの電気が回復していない今、外に逃げれないこの状態で『鉄龍』を失うのは死に直結する。
 とにかく、温存しないと。
 俺は再びサーバールームの出入り口。監視カメラの下に戻った。カードリーダーも監視カメラも電源は戻っていない。
 俺は扉を叩いて廊下側に音を伝えることにした。通りかかった人が気づき、開けてくれるかもしれない。
「誰かっ」
 ドンドン、と扉を叩く。扉を叩く手が赤くなっているのに気付いた時、突然、電気が復旧した。
「?」
 足もとに転がっていた動く肉片が、氷が溶けてなくなるように透明な液体となり、どこかへ吸い込まれるように消え行った。
「なんだったんだ?」
 俺はとにかくカードを操作し、サーバールームを出て監視室に戻った。
「先輩、大変です……」
 見ると、部屋の中にスーツを着た正社員らしい人が三人いた。一人の男は腕を組んで黙っている。もう一人の男は議事録を取っているのか、誰かが話す度にノートPCのキーボードをたたいている。最後の一人は女性で、怒りをあらわにしている。その女性の前に、先輩が正座している。
「なんで最初の停電時に連絡しないの。あなたが先輩なら、停電後はあなたが行くべきでしょう」
「すみません」
 先輩が頭を床に擦り付けそうなほど下げ、謝っている。
「なんでそんな判断もできないの。ここ最近同じことの繰り返しよ」
 女性は自身の手帳を取り出して、赤くしるしをした日付を叩いて数えた。
「すみません」