休憩室に先輩がやってきた。
「影山、今日はもういい。後は俺がやるから」
「一人じゃ無理ですよ」
「さっき監視室にいた社員の人がやってくれるから心配しなくていいよ。もう支度して帰るといい。時間もかなり過ぎている」
 香川さんは悲し気な顔だったが、辛くはなさそうだった。口元はどちらかというと笑っているようにも思える。
「先輩……」
「大丈夫だって。篠原さん達が手伝ってくれるって言ったろう」
「篠原さんって、あの女性の方ですよね。酷いですよ、先輩のことあんなにひどく言う必要……」
「おい!」
 香川さんが怒りをあらわにした。
 胸倉をつかまれるか、と思って俺はあとずさりした。
「篠原さんはなぁ、俺たちのことを考えてああいうことを言ってくださるんだ」
「……」
 俺は言いたいことを飲み込んだ。
「わかったら帰れ」
 俺は支度をしてバイト先を離れた。
 帰りの途中で、冴島さんに電話をかけた。
「ああ、影山くん。どうしたの、悪霊は見つかったの?」
「いえ、まだなんですが」
「……GLP使ったな?」
「あ、はい使いました。相談はそれなんです」
「使用料馬鹿になんないんだから、適当に遊びで使わないでよ」
「あ、遊びじゃないんです。ゾンビが出たんですよ、ゾンビ。サーバールームに」
 電話の向こうで冴島さんは何か考えているようだった。
「あのね、ここは日本なの。ゾンビって……」
「そう、俺も変だなって。しかもバイト先の人、俺の目撃無視するし、監視カメラの映像も見てくれない」
「あのね、もし本当にゾンビをみたっていうなら、それはあんたにしか見えてないわ」
「えっ?」
 俺は大きな声を出してしまって、周囲から注目されてしまった。
 慌てて道路わきにあった自動販売機の横に避け、電話をつづける。
「どういうことです」
「そのゾンビはあんたにしか見えていないって言ったの」
「意味わかりません。だって、GLPで出した鉄龍で叩き壊せましたよ。きっと本当にいたんだと思います」
「そうか、それで二つ使ったんだ」
「冴島さん、どういう意味ですか?」
「分かりにくいかもしれないから、後で説明するわ。とにかくぞのゾンビは影山くんにしかみえない。そして『鉄龍』を使うことは有効よ。ゾンビと、今回の除霊は別だから、除霊の方の話は人に注意するのよ」
「はい」
「よろしい。じゃあね」
「あっ……」
 通話が切れてしまった。俺は清掃員の話もしようと思ったが、わざわざ掛け直して言いくわえるほどの内容はなかった。見つけたけど、捕まえ損ねた、と説明するぐらいしかできない。ならば、『ふ~ん。捕まえてから報告してよね』で終わりだろう。 
「はぁ……」
 ため息をついて、俺はまた帰り道を歩き始めた。



 次の勤務の時、香川さんはいなかった。初めて一緒にやるバイトの人に挨拶をして、監視室に入ると、社員の篠原さんがいた。
「えっと君は、バイト……」