「はい」
「バイトの?」
 篠原さんは手のひらを上にし『どうぞ』とばかりに俺に向けてくる。
 何を答えればいいのだろう?
「バイトの…… ああ。バイトの影山です。よろしくお願いします」
「そうそう影山くん。この前、サーバールームで何か見たって言ってたじゃない」
「ああ…… えっと……」
 冴島さんが言っていた。あれは俺だけがみたのだと。
「ちょっと気になるから見たいのよ。私、操作教えてもらったから出来るわよ。あの日の何時ごろ?」
「ああ、もういいです。俺、疲れてたのかもしれないから」
「6時まえだっけ?」
 スーツの篠原さんは勝手に再生を始めた。
 ちょうど俺が停電後の再巡回をしているところが映し出された。
「これ、あなたね」
「……はい」
 サーバーの列を一つ点検する度、そのカメラに俺が映る。
 カメラの映像が暗くなって、何も見えなくなった。
「停電、なにこれ。このカメラ暗視カメラじゃないの。あんなに高い金額だして買ったのに。警備会社に文句言って取り換えてやろうかしら」
 また怒っている。俺はGLPを少し意識しながら、篠原さんに近づいてみた。もしかしたら、GLPは強い霊力を感知するのかもしれない。
 映像は俺がスマフォのライトをつけて助けを求めているところだった。
「何やってんの? 君」
 篠原さんは映像の方を向いたままそう言った。
 俺が監視カメラの方に手を振っているのが、何なのかということを聞きたいのだ。
「たぶん先輩を呼んでるんですよ。扉が開かなかったので」
 俺の背後には動く死体があったはずだ…… 映像には微かな影すら映っていない。
 冴島さんの言ったとおりだ。
「ふざけてるって表情でもないわね」
 篠原さんはあごに指をかけて画像を見ている。
「君、ちょっと場所教えてくれる」
 ビデオを止め、立ち上がった篠原さんが手招きする。俺は別のバイトの人に会釈をして、篠原さんについていく。
 篠原さんがカードをあてるが、サーバールームは開かない。
「あれ?なんで開かないの?このカードリーダー壊れてんじゃないの?」
「社員さんのカードでも、当日許可命令を監視室から指示がないと開きませんよ?」
「知ってるわよ。久しぶりだったから忘れてただけよ」
 俺は監視室に電話をして、許可をもらう。
「もう開くはずです」
「監視室から出るときに気を回してくれてもいいのにね」
 俺は苦笑いするしかなかった。そのつもりで頭をさげたつもりだったからだ。
 サーバー室に入ると、篠原さんがやたらに質問をしてきた。最初のうちはサーバールームで見たというゾンビの話だったのだが、次第に篠原さん自身の趣味の話だとか、なんでこのバイトを選んだのかとか、俺のことにも及んだ。
 やたらと俺の手をとり、距離を縮めてくる。
 初めは何も思っていなかったのに流石に意識し始めた。
 そしてどうせ自分がモテるわけがないという自虐的な思いが、繰り返しやってくる。容姿が圧倒的に普通だからだ。特徴もない自分を突然好きになるわけがない。篠原さんが今、何か、特別な状況にあるからに違いない。
 気付くとサーバールームの端に来ていて、俺は篠原さんをまるで捕まえようとしているように両手を壁につけていた。