「!」
 篠原さんはじっと見つめた後、ゆっくりとまぶたを閉じた。
 これは、壁ドンからの……と言う展開としか思えない。
 袖を軽く引っ張られ、俺は篠原さんの方へ顔を近づけていった。もう、何も考えていない、反射的な行動としか表現ができなかった。
 その時、ガツンと音がして、電源が切り替わった。停電起きたのだ。
 暗くなったサーバールームにびっくりして俺は正気に戻った。
「停電です。もしかしたら……」
 俺の言葉に、篠原さんが反応した。
「あのとき見たっていうゾンビが出るってこと?」
 俺はうなずいた。
 あのときもきっかけは停電だった。サーバーラックの扉が開き、そこから……
 俺はあの時の音、ラックの扉のバネが弾けるような音を待っていた。それがゾンビが出るきっかけのはずだからだ。
 しかしいくら待ってもそんな音はしない。
「怖い」
 暗さに耐えきれなくなったか、ゾンビなど出ないと思ったのか、篠原さんは俺の首に手を回して抱きついてきた。
「怖くて震えが止まらない」
 押し付けられる体を感じると、俺の中で無意識に熱くなるものがあった。
 どうしよう、俺は……
 バンっと音がすると電源が復旧した。
 一気に明るくなり、俺はそっと体を遠ざけた。
「……」
 篠原さんも何か気まずいような目で俺をみてくる。俺は逃げるようにその視線を外した。
 しばらくサーバールームを歩いて回ったが、どちらが言い出すわけでもなく監視室へ戻っていた。
 俺はバイトに戻り、サーバーの点検をし、レポートを作成し、提出した。
 篠原さんは俺がサーバー点検の為、監視室を出ると同時に帰っていったらしい。
 正直、俺はこの篠原さんが悪霊に憑かれていて、そのせいでサーバーラックからゾンビが出てくるのだとと思っていた。それなのに一緒にサーバールームにいるときにゾンビは出なかった。あの時の手首の違和感も今日は全く発生していない。
 建築現場のバイトのとき、やはり同じように女性に気に入られた。そして、その女性が悪霊に取り憑かれていたのだ。取り憑かれている女性は、本能的に除霊をしてくれると思って好意を寄せてくるのだ、俺はそう思っていた。
 しかし今回は全くそういう気配はない。だとしたら、何故俺がモテるのか理由がわからない。ごく普通の平均的かそれ以下の人間がモテる訳は何なのか。
 突然、スマフォが振動した。
 俺は急いで休憩室へ出て電話を取った。冴島さんからの電話だった。
「冴島さん。なにか用事ですか?」
「そっちの状況はどう? 怪しい人物はいた?」
「……」
「どうしたのよ?」
 俺は思い切って尋ねてみることにした。
「冴島さんから見て、俺ってどんな男ですか?」
「突然電話で何言ってるの? 頭に虫でも湧いたの?」
 そんなことを言われるのは百も承知だった。俺はつづけた。
「あの…… 冴島さんからみて、俺がモテる理由、なんかありますか?」
「はぁ? もしかして、あんたまたバイト先の女をたらしこんでるの? いい加減にしなさいよ。そのバイトに送り込むのだって費用かかってるんだから、そのバイトで女くどくなら、送り込む費用はあんたに請求するわよ」