真琴達が教室に入ってから、しばらくして品川がやってきた。
 真琴の電車がぎりぎりなので、次の電車で来たのでは授業が始まってしまう。品川が遅れて教室に入ってくるのは、朝練して部室で着替えてからくるだろう。
 それだけ回復していて、頭痛もないということなのだ、と真琴は推測した。一昨日は頭痛が酷くて寝てられなかった、と言っていた。昨日は学校に来なかったから、医者に行っているはず。だが、今日はいきなり朝練してるほど調子が良い、と考えれば真琴の推測は間違えなさそうだった。
 いつもはそんなことを言ったことはなかったが、真琴は座ろうとする品川に言った。
「品川さん朝練したの? この前の頭痛は?」
「ああ、うん。病院に行ったけど、特に問題ないってさ」
「頭痛もないの?」
「うんないよ。どうして?」
 品川は真琴の方に振り向いてそう言った。
「この前がこの前だったからさ、頭痛持ちとしては気になって」
「ありがと。もう大丈夫だから」
 そこで担任が来て出席と簡単な連絡があった。
 品川の周囲で話されていることを聞き耳を立てて聞いていたが、会話に加われなかった。
 周囲との会話の流れに入れないなら、強引にでもきっかけを作って割り込むしかない。話しがあるからと呼びかけたかったが、元々品川と関わりがなかった為に、誰の声に反応するのかとかが分からず、空振りとなってしまった。
 それに、品川はおしゃべりだった。
 とにかく誰かとしゃべることに夢中になっていて、顔の向いている方にしか興味がないような感じだった。
 三時間目の後の休み時間、真琴は完全に捨て、薫と打ち合わせをすることにした。
 薫と一緒に渡り廊下に行き、クラスの他の子に聞かれないように注意した。
「薫、どうしよう」
「見てたけど、思ったより難しいね」
「それに品川さん結構おしゃべりだね…」
「割って入れないようなテンポだし」
「ボクは疲れたよ」
「お昼ごはんは、教室で食べてた記憶があるよ。たぶん購買で買ってきてるんだと思う」
「購買か…」
 購買は、結構人がごった返すから直接触れるだけでも良いならチャンスかもしれない、と真琴は思った。
「購買、私は行ったことないけど、行ってみる?」
「行ってみよう。面倒な手続きなしで、接触できるかもしれないし」
 四時間目の授業中、真琴は購買でどうすれば接触出来るかのシミュレーションをしていた。たまに品川の方を見ると、どうも一、二時間目の間中、品川の周りをうろちょろしたせいか、目があった。それとなく視線はそらしたのだが、何か変に思われてしまっただろうか、と心配なった。
 授業の内容がロクに頭に入らないまま、四時間目が終わった。
 購買で昼食を買う人は、大抵、昼休みと同時に購買に駆け込む。全力、という訳ではないが、かなり急いでいかないと、目当てのものが買えないことが多いのだ。
 そう思って、品川の様子を注視していると、特に慌てることもなく廊下を歩きだした。そして靴を履き替えて外に出ようとした。
 あれ、とは思ったが、近所のコンビニで購入する者もいたので、そういうことなのか、と思い、品川に合わせて外に出ようと考えた。薫も靴を履き替え始めた。
 ふと、見ると外とは反対方向に走っていた。
「逃げられた!」
「真琴っ!追って!」
 品川の走り去った方向を追っかけた。
 品川の姿が、校舎の角を曲がるのを確認すると、その角で立ち止まってからゆっくりと先を確認した。
「王子」
 真琴は後ろから肩を叩かれた。
「なんで付けてくるの?」
 肩に載せられた手には特に力は掛かっていなかったが、真琴は慎重に後ろを振り返った。
「品川さんだよね?」
 姿や顔は真琴の知っている品川そのものだった。
「そうだよ。王子」
「品川さんはボクの事、王子、なんて言わないよ。あなた誰?」
 品川が少し動揺したように思えた。真琴はそれに気づくと、そのまま肩に置いていた手を掴んだ。
「?」
 護身術とかを学んでいれば、この手をひねったりして相手の動きを制することが出来たのに、と思ったが、品川は全く抵抗しなかった。だが、真琴が考えていたことはこれで実行されたはずだ。
「どう?」
「どうもしないよ」
 おかしい、一昨日は彼女の額を触った時にすぐに頭痛を感じたのに、と真琴は思った。
 真琴は目を閉じて、考えた。
『ヒカリ、どうすれば良いの?』
 答えは返ってこなかった。
「真琴、どうしたの?」
 薫がようやく探し当ててくれたようだ。
「品川さんがおかしいんだよ」
 品川が、空いている左手で真琴を指さし、
「王子の方がおかしい」
 と言った。
「え?」
 薫は品川が何を言っているのか分からなかった。その時、ようやく真琴の頭痛が始まった。
「なに、どういうこと? どういうことなの? 助けて!」
 品川も真琴の手を振りほどいて頭を抑えて叫んだ。
「判らない。判らない、痛い!」
 どうやら品川も頭痛が出たようだ。
「いや、いや、いや!」
 品川は走って教室へ戻って行ってしまった。真琴達もすぐ追いかけたが、掴まえることは出来なかった。
 教室に戻ると、品川は自分の席に座り頭を抑えてずっと机を見ていた。様子がおかしいことに気付いた友達が話しかけるが、いっさい答えるようすがない。
「苦しかったらなんか言ってよね」
 と言うと、頭を縦に振ったのでそれ以上問いかけなかった。
 真琴は自分の頭痛を感じならが、品川がどういう状態なのかをじっとみつめていたが、薫に言った。
「薫、品川さんをお願い」
「どうしたの?」
「頭が痛い」
 真琴も自席で寝てしまった。