俺の言葉の続きを待っているかのような沈黙。
 さっきまでとは別の汗が出てきた気がする。
「あの、なんのこと……」
「監視カメラの映像は見た…… 事実を言ってみろ」
 なんでこんな強い口調なんだ。俺は考えた。香川先輩は篠原さんから酷い言葉で責め立てられていたじゃないか、俺が何をしたって構わないんじゃないか?
「えっ? 別に」
「……」
 物凄い破裂音が聞こえた。おそらく香川さんが受話器を叩きつけて切ったのだ。
「どういうことだよ」
 俺はそっと受話器を置くと、残りのハードディスクの交換をしようとサーバーの場所を探した。
 ガツン、と音がして、明かりがオレンジ色のものに変わった。
「また停電」
 一瞬立ち止まったが、俺はあきらめたように作業の続きに移った。
 バシャーンと複数のラックの鍵が開いた音がした。
「まさか……」
 俺はハードディスクをカバンに戻し、音のしたサーバー列を覗き見た。
 扉が開き、青白い肌の動く死体がゆっくりと出てくる。
「き、来た……」
 俺は神道と仏教を混ぜこぜにした、この国の一般的な宗教スタイルだったが、天井を見上げると、十字を切って手を合わせた。
「神よ……」
 動く死体に天罰を与えてくれるのは、この国の八百万の神ではなく、仏様でもなく、キリストに違いない。俺は勝手にそう思っていた。普段の信仰もないのに、今祈れば何かしてくれる、そんな安易な考えだった。
 再び、バシャーンとラックの鍵が一斉に外れる音がして、キィーっと扉があく音がバラバラ聞こえてくる。
 唸るような声が聞こえてきて、生ける屍たちが徘徊し始めたことを悟る。
「量が多すぎる」
 GLPの竜頭を回して、効果が分かっている『鉄龍』を選択する。そして竜頭を押し込んで投影された光から形成される杖を手に取る。
「これで復電まで耐えないと」
 俺は電気が回復した時にすぐに出れるよう、サーバールームの入り口へ逃げた。
 ゾンビたちは俺の影を追って、右、左に体を揺らしながら歩いてくる。唸り声が重なって、うねりのように聞こえてくる。
 壁を背にして杖を構えた。
 一体、二体、四体、と次第に増えながら、俺の方に向かってくる。
 俺は寄ってきたゾンビの頭を突いた。
 肉体が崩壊するように床に散らばる。口、目、歯、ボロボロの布、腐った肌…… 赤黒い液体も。
 腐臭に鼻をつまみ、近づいてくるゾンビを杖で刺したり、叩いたりして対処する。
 寸前でつかまれたり、噛みつかれそうになったり……
 やっているうちに、杖が全体的に小さくなってくる。
「やばい、持たない……」
 前もおなじようなことになっていた。その時は電気が回復するとともにゾンビは消え去ったが、同じとは限らない。間に合わなければゾンビになった俺は、復電とともに消え去ってしまうかもしれない。
 杖が短すぎて、ゾンビとの距離を保てなくなってきた。
「神様……」
 言うと同時に、爆発音がした。
 何が起こったのか全くわからなかったが、見ると廊下側の壁が破壊され、穴が開き、周囲に破片が散らばり、粉が舞っていた。
「なんだ?」
「影山くん、生きてる? ゾンビに噛まれてないよね?」