冴島さんの声だ。
 助かった! 
「カマレテマセン!」
 俺は声が裏返っていた。
「そう。よかった。もう少しの間、自分の身は自分で守ってね」
「えっ?」
 壁の穴から、銀色の剣が飛び出してきて、そこにいたゾンビに触れた。ゾンビはそのまま霧のように分解した。
 そして、冴島さんが身を屈めてそこから入ってくる。
 左手には小さな短冊のようなものを持っている。
「おっと……」
 いつの間にか俺の近くに寄ってきていたゾンビを鉄龍で叩き壊した。
 ラックの扉が閉まる音がした。
「早く助けてください!」
「ラックを封印するから、それまでは耐えて」
「冴島さん、その剣を俺にください。この杖はもう小さくなってきて…… ヒッ!」
 俺は慌ててゾンビに杖を突きさす。
 床にはバラバラになった生ける屍たちの肉片がうごめいていた。
「この剣を渡したら、こっちがゾンビになっちゃじゃない。甘えないの」
「他になんか方法を教えてください」
 壁の穴から、小さな影がすばやく入ってきた。
 すると俺の目の前のゾンビが一体、砕け散った。
「的確に急所を狙えば、パンチでも倒せるよ」
 俺の目の前に立った白髪の老人はそう言った。
「松岡さん!」
「影山くんを補助してあげて」
「はい、お嬢様」
 松岡さんは、こう構えろ、と言わばんばかりに俺の方を向いてファイティングポーズを作ってみせる。
「いやいやいや」
 相手がゾンビとはいえ、柔らかいわけではない。それなりのスピードで動くし、避けたりする。素人が急所を拳で捉えるなんて無理な話だ。
 俺は小さくなっていく鉄龍で頑張ってゾンビを倒し続けた。最後は十センチ無かったのではないか。
 目の前に、床一杯に俺と松岡さんが倒したゾンビの残骸が広がっていた。
 冴島さんが、最後のサーバーラックにお札を貼った。
「よし、これでおしまい。サーバーラックは全部封印したわ」
「お嬢様、これで汗をお拭きになってください」
 松岡さんが、冴島さんにタオルを持って行った。
 その時、床で動くものが目に入り、俺はゾゾッと寒気がした。
「冴島さん!」
 ゾンビの肉片が集まって、床に大きな口を形成していた。
 その唇がパカっと開くと、集まれなかった肉片がその口の中に吸い込まれていく。
「うぇっ……」
 もう俺の手の中にあった鉄龍は消え去っていた。
 GLPで竜頭を回しても、『鉄龍』はグレーアウトして、選択不可状態だった。
「冴島さん!」
「わかってるわよ」
 床の口がまた開くと、口の中に星空のような暗黒が見えた。
 シューッと空気が激しく流れる音がして、俺はその唇の方へ引き寄せられた。
「助けて!」
 足が口の中に落ちてしまった。そしてなす術もなく腰の辺りまで一気に吸い込まれた。サーバールームの床下に体が、いやサーバールームの床下ではないどこかの空間に体が入り込んでいた。俺は手でその大きな唇を掴んで、なんとか全身が吸い込まれぬよう、耐えていた。